何がと言われると困ってしまうのだけれど、何故だかそわそわと心が落ち着かなかった。
こういう時は七緒ちゃんの演奏を聴くに限ると思い、スマートフォンにイヤホンのプラグを挿入したところではたと気が付く。
今日は七緒ちゃんが練習する日じゃないですか……

そうとわかれば早かった。万一七緒ちゃんと遭遇してしまってもいいように万全の準備。
ここ最近いつも思う事ですが、気になる相手が女の子だと尚更頑張り甲斐がありますよね!
あまり使わないグロスも塗り、準備完了。どうせすぐに落とすからと重ね塗りはしないことにした。
「よし」
そして最後に鏡でいつもの笑顔の確認。近頃良く見る、その上気したように赤くなった頬は、顔は、まさに恋する女の子のそれだった。


寄宿舎から出てすぐの曲がり角で突然の衝撃。それに加え柔らかい感触。大好きな香り。
態勢が良くなかったのと不意の七緒ちゃんに驚き、彼女を巻き込んで私はふらふらと後ろへ倒れこんだ。
まるで七緒ちゃんに押し倒されているような体勢に、アイドルらしからぬ表情になっているのを自覚する。しかし彼女に見られるわけにはいかないので、そのだらしなく歪んだ顔に透かさずいつものアイドルスマイルを張り付けた。

七緒ちゃんはすぐには状況が理解できなかったのか、すぐ横にある私の顔を数秒間見つめると「舞園さん!?」と私の名前を叫ぶ。

「奇遇ですね七緒ちゃん!」

私の笑顔に硬直する七緒ちゃん。
彼女へのこの思いも貫き通すと決めたあの時から、私の七緒ちゃんへの大好きが大きすぎて度々忘れてしまう事があったけれど、やっぱり彼女は私のファンだった。

「今、き「奇遇ですね!」
「ソウデスネー」

同じ事を考えていてくれたのが嬉しくて、偶然出会えたのが嬉しくてつい二度も言ってしまった言葉。大事なことなので……というあれはこういう時に使うのだなと改めて思う。
すると突然七緒ちゃんが上体を起こした。本当ならこのままの状態で七緒ちゃんの熱をもっと味わっておきたかったのだけれど、これ以上離れまいと慌てて腰を掴む。
不本意ながら離れてしまった上半身は残念だったけれど、私の下腹部に赤い顔で跨る七緒ちゃんには大変クるものがあった。

「それにしても、すごくぼろぼろですね……」

それに、極め付けはこれだ。眼前に広がる七緒ちゃんの御御足。纏ったタイツは所々破け白い肌が眩しく露出している。
勿論私の事なので、我慢がきくわけもなくその肌色に吸い寄せられた。

「うん、だから部屋に戻りたいんだけど」
「そうですか」

彼女の声は音として捉えられる事はあれど、言葉として私の耳に入る事はなく右から左へ受け流される。
そんなことよりも目の前の七緒ちゃんが大事だった。
触れるか触れないかの絶妙な力加減で指の腹を這わせるとびくりとする七緒ちゃん。時折、タイツと肌の隙間を割って指を侵入させると煽情的で悩ましい声を漏らす。慣れて来たのか同じ事を繰り返したり、果てはタイツを少し破いてみたりするだけで彼女の息は荒くなった。

「んっ」
「七緒ちゃん可愛い……」

自分の体を支える事すらできなくなったのか、七緒ちゃんが再び私の上に覆いかぶさる。先程よりも高い体温にさすがの私も恥ずかしくなり、つられて身体が火照ってきた。こんな所で私は何を……。







部屋に戻ってきた私は七緒ちゃんのタイツを握りしめていた。
あのままの彼女をそのまま放置するわけにはいかず部屋まで連れて行きしばらく介抱。何故だかぼうっと考え事をしている七緒ちゃんに半分冗談のつもりでタイツをくださいと言ってみたら要求が通ってしまったのだ。

ふうと息を吐き鏡の前に座ると、グロスが半分ほど剥げていることに気付く。
やっぱり重ね塗りしないとだめだったか――。


16/8/28

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