「照れ隠しだと思うけど、七緒ちゃん……あくまで自分は舞園ちゃんのファンだからプライベートには干渉したくないって言ってたよ」

ドーナツを片手にそう言う朝日奈さんは、気まずいのかあまり元気のない表情。
食事中に申し訳ないと思い、それを伝えると彼女は「ううん!気にしないで!友達は多い方が良いに決まってるからね!舞園ちゃん頑張って!」と今度はいつもの太陽のような笑顔で励ましてくれた。やっぱり女の子は笑顔が一番ですね。

……とは言ったものの、あの時の千崎さんを思い出してから彼女を見る度胸の辺りがざわつきが治まらなかった。この感覚の意味がわからないほど鈍感ではないけれど、困った顔や泣いている顔が見たいなんて、そんな、まるで私が千崎さんに本気で恋をしているみたいじゃないですか。







いつもとは違う千崎さんのいる自分の部屋。
床に座らせるのは悪いからとベッドへ彼女を促し、隅に並んで腰かけていた。
以前より会……挨拶をしてくれるようにはなったけれど、会話という会話もあまりした事のない彼女を、自分の気持ちを確かめたいからといって、部屋に招くなんて私は一体どうしてしまったのだろう。(誘いに乗った千崎さんも千崎さんだ)

「千崎さん」

彼女を呼ぶ私の声は震えていた。
伏せていた顔を上げた千崎さんの表情は、私が見たいと思っていた困り顔で、胸がきゅうっと締め付けられる。
その慣れない感覚が気持ち悪くて、一旦心を落ち着ける為に飲み物でも……と思ったけれど、つい先程緊張で一気に飲み干してしまったのを、コップを見てから気付いた。

「どうかしました?」

あまりに刺激的な彼女の顔を間近にしてすっかり忘れてしまっていたけれど、返事のない千崎さんが心配になり、距離を詰めて様子を伺う。
あの時と同じ赤い顔に、なんだかぐっとくるものがありもっと見てみたいという欲望に任せて千崎さんの白い太ももにそっと手を乗せた。

「どうもしないよ、大丈夫」

何が大丈夫なのか、真っ赤な顔で左胸に手を当てる彼女が何を考えているのかわかりやすくて、可愛らしくて顔が綻ぶ。
アイドルだからと、そんな事に現を抜かして良いわけがないと、自分にそう言い聞かせてきたけれど、もう誤魔化すのは限界かもしれない……です。

「はい、すごく……早いですね」
「え?」
「エスパーですから」
「え……ええ?」
「……冗談です!」

自分の気持ちを誤魔化すように、できるだけの笑顔でそう言うと安心したように千崎さんが笑った。
やっぱり……女の子は笑顔が一番可愛いんですよね。

初めて私に向けられた笑顔に、どこかで聴いた"恋に落ちる音"が聞こえたような気がした。

「今日はどうしたの?」

気付いてしまえば、用なんてないようなものだった。
彼女がもしエスパーだったら、私が千崎さんをここに招いた理由も、私が彼女に抱いている気持ちも全てぶちまけてしまえるのに、なんて突拍子のない事を思う。

「用がないと、友達を……千崎さんを部屋に招いてはいけませんか?」

友達……好きだと気付いてしまったからこそ感じるその言葉の違和感。
けれど、自分が千崎さんとどうなりたいかなんて、自分が背負うものの大きさに今は何も考えられなかった。

「なんて……用がないなんて、嘘なんですけど」

不思議そうな顔で私を見る千崎さん。その少し開いた唇に目を奪われる。今思えば、あの時の私は彼女の震えを止めたかったのではなくこの魅力的な唇に触れたかっただけなのかもしれない。

「千崎さん」
「は、ははははい!」
「キスさせて下さい!」
「え、嫌です」

自分の口から出た言葉にも驚いたけれど、千崎さんの即答にも驚く。許可が出るとは思っていたわけではないけれど、押しに弱そうに見えて案外嫌なことは嫌と言えるタイプなのだと驚いたのだ。

「私と一緒にいるのに、千崎さんは何を考えているんですか?」
「えーっと……舞園さんのことかなあ……」

千崎さんの言葉にどきりとする。この娘は一体どこまで私を困らせるのだろう(先に困らせたのは私ですけど)。

「本当ですか!?」

嬉しさの隠し切れていない声に、自分に、呆れる。

「怯えた表情も素敵ですね」
笑顔が一番素敵ですが。なんて

距離を更に詰める私、逃げようとする千崎さん。
少し肩を押せば、静かに軋むベッド。その光景だけでくらりとする頭。
もう、自分がおかしな事をしているなんて気付かせてくれる頭なんてなかった。

「ずっとこの唇に触れたかったんです」

千崎さんの唇を思う存分目に焼き付け、それを優しく撫ぜる。時折香る彼女の匂いに更に酔う思考。もう彼女が拒絶しないかぎり私を止めるなんて無理だった。

「好きです七緒ちゃん……」


16/8/21

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