自分とは違う女の子らしく装飾された部屋。
床に座らせるのは悪いからとその部屋の主に促され、ベッドの隅に並んで二人で腰かけていた。
私と舞園さんは友達なんて言って良い程近しい関係ではなく、すれ違ったら挨拶する程度。つまりただの顔見知り。……のはずなのに、この状況は一体なんなのだろう。

「千崎さん」

私を呼ぶ透き通った美しい声に、伏せていた顔を上げる。
もうどれくらい俯いていたのか、舞園さんが用意した飲み物は、彼女の分だけ小さくなった氷を残し、もう既に空の状態だった。
私の方はといえば、まったく手付かずで、氷が解けて生成された水と飲み物が分離している始末。

「どうかしました?」

あまりに綺麗に整った顔を間近で直視してしまい、返事をするどころか呼吸さえ忘れていた。
そんな私を心配したのか、舞園さんは先程より互いの距離を縮めた挙句、私の太腿に白く美しい手を乗せる。
えっと、それは私のセリフなんだけどなあ……

「どうもしないよ、大丈夫」

何かあったとすれば、早鐘を打つ私の心臓だ。
今にも破裂してしまうのではないかと錯覚してしまうほどに、早く脈打っている。
もう、これは舞園さんに聞こえているのではないだろうか。

「はい、すごく……早いですね」
「え?」

なんで今私の考えていることが……

「エスパーですから」
「え……ええ?」
「……冗談です!」

テレビで見る舞園さんとはまた違う笑みで微笑まれる。
まるで悪戯が成功した時の子どものような表情に、自然と私も口元が緩んだ。
もしエスパーが本当だったら、今考えていることも普段私が心で舞園さん可愛いと叫んでいることも、全て筒抜けになっているということなので内心かなりホッとする。

「今日はどうしたの?」

舞園さんと少し言葉を交わす事で、僅かながら落ち着きを取り戻してきた私は、ずっと放置していた飲み物を手に取り一口飲んでからずっと疑問に思っていたこと尋ねた。
うげ、上の方ただの水だ。

「用がないと、友達を……千崎さんを部屋に招いてはいけませんか?」

とも……だち?
やばい、どうしよう。すごく嬉しい。憧れの芸能人と……というのもあるけれど、ずっと可愛いと話してみたいと思っていた人からそんな風に言われるなんて、そんなの……嬉しすぎる。

「なんて……用がないなんて、嘘なんですけど」

えっと……じゃあどうして舞園さんは?

「千崎さん」
「は、ははははい!」
「キスさせて下さい!」
「え、嫌です」

反射的にそう答えてしまったけれど、想像してみると嫌な気持ちにはならなかった。
ん??……想像?何想像してるの私……変態かよ。というか、嫌じゃない方が大問題なのでは。

重大な事実に気付き頭を抱える。
別にそのようなことに偏見があるという訳ではなく、あまり会話したことのない相手なのに嫌じゃないなんて、自分はまさか節操無しなのではないだろうか。
という不安に襲われたからだ。

「私と一緒にいるのに、千崎さんは何を考えているんですか?」
「えーっと……舞園さんのことかなあ……」

嘘を吐くのは気が引けたので、素直に本当の事を言う。
流石に舞園さんとのキスを考えていた等とは言えるわけもないのだけれど。

「本当ですか!?」

心底嬉しそうに彼女は言うと、さらに距離をつめて来た。まったく、こんな時でも可愛いなもう!
って……え?ちょ、近……い

「怯えた表情も素敵ですね」

頬を紅潮させ、照れた様な表情でさらにさらにジリジリとにじり寄ってくる舞園さん。(そこ照れる所じゃないし!いや!やめて!押し倒さないで!)
優しく押し倒され、控えめに軋むベッドに背中を投げ出した。
舞園さんの香りに包まれ頭がぼーっとする。

「ずっとこの唇に触れたかったんです」

私の唇を舐めるように見つめ、彼女の手とは思えないほどのいやらしい手つきで唇を撫ぜる。
どことなく息の荒い舞園さんに、今度こそ何をされるのか理解した私はぎゅっときつく目を瞑った。
実際にこんな状況になっても彼女を拒否しないということは私は舞園さんのことが好きなのかも知れない。

「好きです七緒ちゃん……」


13/7/25

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