千崎七緒はとてもミーハーだ。
というのは、この希望ヶ峰……少なくとも78期……ひいては、メディアに少しでも露出した事のある超高校級たちに於いて周知の事実だった。
そして"アイドル舞園さやか"が好き。というのも、言わずとも知れた事実だとみんなは口を揃えて言う。
しかし、アイドル舞園さやか本人……つまり私だけは"知らなかった"



「おこです!」
「そう、大変ね」
「ああん、霧切さんのいけず!!」

霧切さんに理不尽な怒りをぶつければ、返って来る単調な声。これもまた理不尽だけれど、少しむっとする。
というか、全部千崎さんが悪いんですよ!私の顔を見るなり逃げ出すなんて!

「どうせ千崎さんのことでしょう。いい加減聞き飽きたわ」
「勝者の余裕ですか!そうなんですね!」

そんなことを言いながらも、大きなため息を吐き読んでいた本を閉じる霧切さんに、彼女から私への愛を感じ「好きです!」と伝えれば、デコピンが飛んで来る。

「それをそのまま彼女に伝えればいいんじゃないかしら」
「それができたら、こんなに苦労してませんよ。……というか、私は別に好きとかそういうのじゃないんですってばぁ」
「授業中でもあんなに見つめて良く言うわ」
「やだ、霧切さんってばわ「勘違いしないでちょうだい」

「まだ何も言ってないじゃないですか」と霧切さんの手を握ろうとすると、今度は手加減なくはたき落され頬をつままれた。
霧切さんって私がアイドルって知らないんでしたっけ??もっと優しくしましょう???

「貴女は、考えている事が顔に出るのよ。千崎さんもその顔から溢れ出る下心に気付いているんじゃないの」
「下心?何ですかそれ、アイドル知らな……痛い!痛いです!」

容赦なく飛んでくる鉄拳に、愛が!!と叫べば、「愛?そんなものはないわ。ここにあるのは苛立ちだけよ」と冷ややかな声。
仲が良いからこその軽口……というより暴言に頬が緩むのは許して欲しい。

「ひどい!」
「その割には嬉しそうね。……それで、結局どうしたいの?」
「私も千崎さんとお話したいです」

みんなはずるいです。私だって千崎さんの声が聴きたいんです。







ふと、初めて私と対峙した時の千崎さんを思い出した。
確かあれはお互いがそれぞれ、この教室で霧切さんと江ノ島さんと待ち合わせをしていた時の事。

「千崎さんも待ち合わせですか?」
「ひゃいっ!」

背後にいた私の存在に気付いていなかったのか、身体を大袈裟にびくりとさせると壊れたロボットの様に不自然な動きでこちらを見た。
そして、私だと気付くと(声で気付いていたでしょうが)大きな音を立てて椅子から崩れ落ちそうになる。

「はい、待ち合わせですごめんなさい!」
「ふふ、なんで謝るんですか」
「え、いや……邪魔かなと思……って」

そう言う千崎さんの顔は赤く目もうるうると涙目、唇に至ってはひどく震えていた。
その様子があまりにも可愛らしく見えて、震えを止めてあげたくて、無意識に彼女の唇へ手が伸びる。
しかし、彼女相手にそううまくいくはずもなく、触れる直前に千崎さんは赤い顔を更に真っ赤にさせ「盾子ちゃん待たせてるから!」と矛盾した言葉を口にして、不格好を通り越して可愛いなんて思わせるような走り方で去っていったのだった。







「そんな顔で彼女のことを想うなんて、やっぱり」
「何を言ってるんですか、霧切さん!」

そんな、私が人を、千崎さんを好きになるなんて……あるわけ、ないじゃないですか。


16/8/15

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