不意にみせる表情


「(な、何でこんなことになってるのかなー!?)」

遡ること数分前。
なまえさんの家に泊まった。…その朝の出来事だった。



――…

「ね…眠れなかったよ」

火照った顔を両手で覆い、呟く。
こんな状況下でぐっすり眠れる人なんているのだろうか。

「なまえさん、起きてるかな?」

悪いとは思いながらも、なまえさんの部屋を覗く。
するとそこには、幸せそうに眠るなまえさんが。
いつも、きりっとしてかっこいい大人ななまえさんの子供みたいな表情。

「可愛い…」

それがあまりにも魅力的で、まるで磁石のS極とN極のように、引き付けられた。
そして…自然と手が伸びてしまう。

「(少しだけ…少しだけ…)」

でも、これがいけなかった。

私はなまえさんの口角が少しつり上がったことに気付かず、そのふにふにした肌を楽しむ。
ヒナさんほどじゃないけど、やっぱり肌が綺麗…。

「きゃっ」

急に腕を引かれベッドの中に引きずり込まれる。
混乱する私の頭では、何ができたのか一瞬で理解することはできなかった。



――…

ここで冒頭に戻り、時間が進む。

「人の寝込みを襲うなんて感心しないなあ…歩」

私の名前を呼ぶ女性にしては低いその声。
寝起きだからなのか、わざとなのかは定かではないけれど、私はその声にびくっと身体を震わせた。

「ご、ごめんなさい!」
「ごめんで済んだら警察はいらないんです!」

少し動けばぶつかってしまうようなこの距離。
長い沈黙のせいで、互いの呼吸…心臓の鼓動が聞こえる…

「「………っふ」」

その沈黙がおかしくて、額と額をくっつけて笑いあった。
ああ、ここまでくるのに色々あったけど…やっぱり、幸せだな。

「さあ、なまえさん!起きて下さい!今日はまだまだこれからですよ!」
「えー!まだ歩とこうしてたいー」
「駄々捏ねないで下さい」
「じゃあ…キスして」

キスしてくれなきゃ起きなーい!
なまえさんは悪戯に笑い、目を瞑って待ちの体制。

「わかりましたよ…」

私はそう言って自分のてのひらをなまえさんの顔に押し付けた。
我ながらいい作戦なんじゃないかな!

「あ!歩っ!今のはなしでしょー」

少し残念そうななまえさんの声を背にリビングへ向かう。
後ろからする足音で、なまえさんが追ってくるのがわかった。

「あ…歩?」

私が振り返るとなまえさんは不思議そうな顔をする。
そして、少し高い位置にあるなまえさんの唇に口付けた。

「なまえさん…おはようございます」

ほら、いい作戦でしょ?








不意にみせる表情


(今のはずるいだろ…ああ、してやられた)


09/8/20

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