きみに触れる


あれから付き合うようになって、何ヶ月か経つ。
さすがに手を繋ぐことはできた(それはそれは大変だった)
でも、あたしだってぎゅーとかちゅーとか…したいわけで、…告白の返事すら聞くのが大変だったから期待なんてしてないんだけど、やっぱり…。




――…

「……」
「澪?」

軽音部の部室。
あたしは何かの視線を感じて辺りを見回す。
ここにはあたしと澪しかいないから必然的に澪の視線…ということになるんだろうけど、あたしは反射的に周りを見てしまった。
気になって身体を彼女の方へ向けると、その視線の正体はやっぱり澪で、でも、向き合ってるはずなのに、視線が交わらない。

「みーお!」
「……」

しばらく観察していると、澪の顔が急に赤くなる。あれ、もしかして…と思い、考える。
澪の視線は確かにあたしの顔。
でも、よく見るとあたしの口元辺りに視線がある(気がする)

「なに、澪…キスしたいの?」

からかってやるつもりで言ったのに、澪は顔をそらして俯く。
え、なに。…まじなわけ?

さっきまでそのことを考えてたせいか、頭が混乱する。

「…抱きしめて、キスして欲しい」

嫌か?と、濡れた瞳…しかも、上目遣いであたしに問うてくる澪(顔も真っ赤で実に可愛い)
そんなの、そんなの…

「いいに決まってるじゃん」



あたしたちは今、部室で二人きり。
あたしの背にはソファ。
それ以外に…問題はない。

「澪、おいで」

ソファに座り両手を広げた。
優しく微笑んでやると、澪はさらに恥ずかしがる。

「なまえ…はず、…かし、」

あたしの脚の間にちょこんと座る澪。
その姿は、いつもの凛々しい澪からはとても想像できない。

「(ああ、あたしのちっぽけな理性…、少しの間だから堪えてくれ。)」

自分の理性と戦いながらあたしは首の辺りに腕をまわして彼女を抱きしめた。
近い、…近い。
…澪の心臓の音がとくん、とくん―
と普通より速く鼓動し、あたしに伝染る。

澪の身体の感触、澪の匂い…。それを身近に…直に感じて…、
…心臓もたないって…っ。

「澪…」

名前を呼び、澪から離れ肩に手を置いた。
耳まで赤く染め、目を力強く閉じている澪。
…そんな姿を見ると、また悪戯したくなる。

「ねぇ、澪からキスしてよ」
「っ!?」

あたしがそう言うと、澪は閉じていた目を見開いて、声にならない声を上げた。
口をぱくぱくさせ、目も泳いでいる。
…かわいいなあ。

「できないの?…澪」

ちょっとバカにしたように言うと、澪は…

「で、できる!馬鹿にするな!」

むっとした表情であたしにそう言い、勢いに任せてあたしの肩を掴んで自分の方へ引き寄せた。
ば、ばか!これじゃ…!

ガチッ

「ったあーい!」
「う…ご、ごめん」

思った通り、歯と歯がぶつかる。
そ、想像してたより痛いんだな、これ…。

「赤く…なってる。…痛そうだ」

自分も同じように痛いはずなのに、澪は心配そうにあたしの唇に指を這わせる。
それに我慢できなくなったあたしは、澪を引き寄せ無理矢理口付けた。

「っ…」
「澪、好きだよ、大好き」
「私も…好きだ、なまえ」






きみに触れる

(キス…下手なんだな)
(り、律…!?)
(ちがっ…!これは澪が!)
(へぇ…澪が、ねぇ)
(…っ!?…ばかなまえ!)


09/7/4

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