保健室
「やっぱなまえくんはかっこええなあ…」
保健室にあるベットで午後の授業をサボっていると、どこかで聞いたような声が耳に入る。それを確認しようと重たい瞼を開くと、そこには、近衛がいた。
「おはよう、なまえくん」
「おはよう…?」
そんな挨拶を、さも当たり前かのように言う近衛に呆気にとられながらも、一応言葉を返す。
え、ていうか、なに?…これ。
「この…え?」
視界が近衛の顔で埋め尽くされると同時に、唇に柔らかい感触。
あ、れ?俺、キスされてる?
起きたばかりの俺の頭の中にはそれしかなく、拒絶するという考えには至らなかった。
「ん…」
少し長い時間触れていたそれが離れると、甘い声が近衛の鼻から漏れる。
ようやく覚醒し始めていた俺の脳に、近衛のその声は甘い媚薬のように溶けていく。
…って、うわあああ、お、俺は何を考えてんだ!
「お、おまっ、何でこんなこと…!」
勢い良くベッドから起き上がり、近衛にそう言うと、近衛はその綺麗な顔を少し歪め、驚いたような表情になる。
「ホンマに鈍ちんさんやな。そんなん…なまえくんが好きやからに決まっとるやん」
涙を一粒零し言う彼女にドキっとする。
そして、…綺麗だとも思った。
しかし、この歳になって初めて見る女の子の涙。…俺はどうしたらいいかわからない。
「な、泣くなよ…」
ゆっくりと近衛に手を伸ばし、恐る恐る親指の腹で涙を拭ってやる。
「優しいんやなあ…」
「え?」
「こないわがままなうちにも優しくして…」
とんだお人好しや…
「返事、考えといてな」
そう言って去っていく近衛の表情に見惚れて…
しばらく呆然としていた。
09/3/12