君だけの特別
「何してるのよ、こんな所で」
なまえを捜すために屋上へ行くと、案の定、彼女はそこにいた。
「んー、いい季節になったなーって」
「珍しいこともあるのね、あんたがまともなこと言うなんて」
「まともー?」
そんな風に聞こえたー?
いつもの調子でにやにや笑うなまえ。
その言葉を不思議に思いながら私はなまえの隣に座った。
「少なくとも私はね」
「下心がこんなにも見え隠れしてるのに?」
どういう意味?と問うと再びにやけだすなまえ。
「白いシャツ越しに見える、少女たちの下ぐえっ」
「そうよね、少しでもそう思った私がバカだったわ」
ため息をひとつ吐くと、その場でのたうちまわるなまえに視線を移す。
やばい、この子おもしろい。
「明日菜はもともとバカだろー。言わなくても知ってるってー」
いつの間にか落ち着いてきたようで、なまえは私の後ろでそう呟いた。
いつ後ろにまわったのよ…。
「んー、明日菜のにおいー」
と、
余計なことを考えていると抱きしめられる。嬉しいけどやめてほしい。
それに…ちょっと、くるし…
「くるしいから…っやめなさっ…い」
苦しそうに見えるようにしゃべると(本当に苦しいんだけど)なまえはやっと力を緩めてくれる。だが、離す気はないらしい。
「明日菜かわいー」
必死に抵抗するも、なまえの腕の中から抜け出すことができない。
どんな馬鹿力よ…っ。
「あー、今日明日菜くろー、めっずらしー。あっ、もしかして今日は"おーけー"な日?」
「ななななにやってんのよーッ」
ベストとシャツにかけていた手を掴んで投げ飛ばす。
「うあああ、足くじいたっ足挫いたよ明日菜っ」
受け身はとれていたのだが、
どうやら投げ飛ばす前に、足首を捻ったらしい。
受身取れてなかったらどうなってたのかしら…。
「教室戻るわよ」
「あーるーけーなーいー」
涙目のなまえ。あれ、これって私のせい?
いや、違うわよ…本をただせばこいつがいけないんじゃない。
でもまあ…
「しょうがないわね、乗りなさい」
「んー、ありがと」
屈んで背中に乗るように言うと、なまえは大人しくなる。
「明日菜ーだいすきだよー」
「何言ってんのよ、バカ」
「明日菜(の)しか興味ないから」
それってどういう意味?
そう言おうと口を開いた…でも
「黒、似合ってたよ」
思ってもみなかった言葉に固まる私。
…あれ?今期待してた?
「あ、明日菜…? おちる…」
「…き…なのに」
「え?」
「好きだって言ってんのよ!」
なまえの次の言葉が出てくる前にその場にへたり込む。…力が入らない。
「え、まじ?」
こんな事で嘘吐いてどうすんのよ。
そう思ったけど口には出さない。
「んーと、言いにくいんだけど…あたしも明日菜のことすきだよ」
きゃー言っちゃった。
なんてわざとらしく言うなまえ。
やっぱりむかつく。
「え、明日なッんんっぅ」
「だいすきなのよ、ばーか!」
君だけの特別
(そんなにばかばか言われると傷つく…)
(てゆーか、置いてくなー!)
08/7/10