くちびる
あの日からみょうじさんはハルヒコなしでも頻繁に五組に現れるようになった。
(ハルヒコのいない昼休みを狙って来ている、と言った方が正しいかもしれない。)
何というか、ハルヒコを出し抜けるのはこの人くらいなんじゃないだろうか。
「それでね…」
笑顔で話を続けるみょうじさんは、やっぱり美人で、思わず、
あの日、あの廊下でキスされたことを思い出してしまう。
とても柔らかく、いい匂いがしたのを覚えている。
「キョン子ちゃん?」
「っ…」
いきなり顔を覗き込まれ、私は無意識に身を引く。
その刹那、甘い香りが私の鼻をかすめた。
とても柔らかかった彼女の唇。
その感触が鮮明によみがえってくる。
「大丈夫?」
もう一度かけられた声、変に思われないようにと今度こそ反応した。
しかし、
「っ!」
無意識というものほど恐ろしいものはない。
…私は、彼女の艶めかしいその唇を視界に捉えてしまっていた。
「キョン子ちゃん」
彼女の唇から紡がれる…私を呼ぶ声。
私はその声に酔ってしまいそうだった。
「(一姫と一緒だなんて認めたくなかったのに…。)」
09/3/10