あなただけに


鞄の中にあるキョンくん用のチョコ。
ハルヒに、いいから作りなさい。って強く言われちゃったからしかたなく作ったけど…今日はバレンタイン。
バレンタインってことは、女の子が好きな男の子にチョコをあげる日。告白なんて、卒業してもする気はなかったのに、何でこんなことになってるんだろう。しないにしても、義理チョコです!なんて嘘を自分がつけるとも思えないし、おまけに大きなハート型。そんなの、どうしたって誤魔化せない。

はあ。
あたしってつくづく馬鹿だよなあ…と思い大きなため息。なんていうか、キョンくんが好きなことがハルヒにバレたのが運の尽き?…ハルヒもキョンくんのこと好きだって思ってたから応援された時は本当にびっくりしたなあ。
複雑そうだったのは…確かだと思うんだけど…。

「朝っぱらからため息なんてつくな、不幸がうつる」
「…なっ!幸せが逃げるとは言うけど、不幸がうつるなんて聞いたことないけど!」
「すまん、冗談だ」

笑いを堪えるようにキョンくんはそう言うと、席につく。
ひとしきり笑うとあたしの方に向いて、おはよう。と一言。
そんな態度の差に少し恥ずかしくなって思わず俯く、やっぱりキョンくんはずるい。



突然だけど、あたしの席はハルヒの隣だ。つまり、必然的にキョンくんの近くになる。
席替えをする度にハルヒの隣になるのが嬉しくてしかたがなかった。キョンくんと近くになれるのも勿論だけど、ハルヒが望んであたしを隣に置いてくれるのが何よりの理由だった。

「お前、ハルヒのこと本当に好きだよな」

いきなり耳に入った声に、少し驚きながらもあたしは、うん。と頷く。
勢いにまかせて、キョンくんのこともだいすきだよなんて言えたらなあ。



――…

ハルヒのこと本当に好きだよな。自分で何気なく言った一言が心に響く。
相手は女だが、ハルヒに嫉妬していたのは確かだった。
じゃあ、俺のことは?
一番気になってることを、目の前で百面相をしているやつに訊いてみたい気もするが、そんな女々しいことできるわけがない。

「ハルヒ達とチョコの交換とかしたのか?」
「ううん、友チョコとか…義理チョコとかは作らない主義だから」
「え?」

…てことは何だ。
本命か?本命がいるってことなのか。

「なまえ…お前、好きなヤツいるのか?」
「!?」

声にならない声を出してなまえは顔を赤く染める。
一言で言えばその表情は可愛い。しかしこれは頂けない。
なんというか、こいつに想われているやつが羨ましいんだろう。

「……ンくんだよ」
「な、なんだ?」
「キョンくんだよ、あたしが好きなのは」

顔を両手で覆って言うなまえ。
な、何なんだ、この可愛い生き物は。

「今の言葉、信じていいんだな」

その言葉を言うと、タイミングを見計らったように本鈴が鳴る。
ニヤける頬を腕で隠して俺は席についた。



目が合う度に顔を赤く染めるなまえや、
俺にチョコレートをくれたなまえは、今までにないくらい可愛かった。


09/2/14

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