目をみて伝える
昼休み。
今日もハルヒは教室にいなかった。
「キョン!大変よっ!!」
「は?」
これまで静かだった教室はハルヒの一言によってさらに静まり返る。
ハルヒはその静けさと、クラス中の視線が自分にそそがれるのが嫌らしく、ばつの悪そうな顔で続けた。
「あのね、」
話すのは勝手だが俺は聞かないぞ。
お前の言う大変なことは俺には関係ない。
「あるわよっ。団員の危機よ!団員の!」
団員?…朝比奈さん?それとも長門?否、まず長門はありえん。あいつなら自分でなんとかしてみせるだろう。
じゃあ古泉?はっ、なら尚更関係ないな、あんなやつ助ける気にもなれん。
「全部ハズレ!なまえよ。なまえ。」
「みょうじ?何があった」
「まぁ…簡単に言うと、なまえがどこの馬の骨だか知れないやつにラブレターを受け取ってたのよ。」
なんでラブレターだってわかるんだ。
まさか…勝手に見たとか言うんじゃないだろうな?
「ん?見せてもらったわよ。」
「おいおい。」
「長々となまえへの愛が書き綴ってあったわ。…でも流石ね、なまえが好きなのがひしひしと伝わってくる内容だったわよ。本気さが伝わってきたもの。でも、そういう大事なことは面と向かって言うものだと思うの。」
どこかで聞いたような台詞を呟きながらもとんでもないことを言い出すハルヒ。
…で?みょうじは返事したのか?
「だからそれが問題なのよ。」
「どういうことだ?」
「悩んでるの。さっさと断ればいいのになまえったら悩んでるのよ!しかもすごく真剣に。話しかけても気づいてなかったみたいだし。」
てことはなんだ?
みょうじが気づいてないのをいいことにお前はそのラブレターとやらを見たのか?
「そうよ。」
「はぁ…」
「溜息つきたいのはこっちよ。…はぁ、なまえったら何考えてるのかしら。」
気にならないといえば嘘だった。
わざわざ口に出さなくてもいいくらいみょうじのことが気になっていた。
ラブレター…ねえ。
――…
「……ンくん。」
ん…。
「キョンくんっ!」
「ん…んん…?」
「キョンく起きてー。」
目を開けると目の前にみょうじの顔があった。
「うおお!」
そして俺は大きな音と共に椅子から転げ落ちる。
痛い…。
「だ、大丈夫?」
そう言って手を差し出してくるみょうじ。
「大丈夫だ。」
「そう…?なんかごめんね。驚かせちゃって」
俺は差し出された手を握るのが恥ずかしくて自力で立ち上がる。
で、どうしたんだ?
「あ、えっと、折角来たのに長門さんとキョンくんしかいないから。長門さんと話すなんて気まずすぎるし… お、起こしてごめんね。」
「否、気にしてない。」
倒れた椅子をもとに戻して座りなおす。
…なあ、
「何?」
「ハルヒから聞いたんだけどよ、…ラブレター貰ったって本当か?」
「うん。」
別にハルヒを疑っていたわけではないが一応本人に確認をとる。
あのさ、返事どうした?
「うん。断った。私、好きな人いるし。」
「そっか。」
「キョンくんは?」
「ん?」
「好きな人、いる?」
好きな人、か。
そういえば今までそんなこと考えてみたこともないな。
特にハルヒと出会ってからは…否、別にハルヒが好きだからとかではない。
それは絶対に言える。間違ってもあいつを好きになることはない。
「私ね、」
いつまでたっても答えない俺に痺れを切らしたのか、みょうじは自分からしゃべり出した。
「そういう大事なことはちゃんと目を見て伝えるべきだと思うの。…だから言うね。私、キョンくんがすき。」
みょうじに言われて気がついた。
ラブレターのことが気になったのも、みょうじの顔が目の前にあって驚いたのも全部みょうじなまえが好きだったからなんだ。
07/9/8