彼女になるチャンス
「キョンー」
「何だ。」
「…何でもない。」
「そうか。」
今、俺を呼んだのは幼馴染のなまえ。いつもいきなり俺の部屋に入ってきては雑誌を読み漁っている勝手な奴。
読むのはいいのだが、いきなり入ってくるのはかなり心臓に悪い。(それにしても、互いに年頃なのだからノックするのが礼儀というものだろう)
というか、なんでこいつは俺の様子を盗み見ているんだ?
さっきも俺を呼んだかと思えば、何でもないとはぐらかした。
その様子からして何でもないという言葉が嘘なのは明らか。
「何だ。」
「な、何が?」
何か用なんだろ?俺は読んでいた本から視線をずらさずに問う。
…少し経っても答えが返ってこないので、なまえの方を見やると何かを思い出したように顔を紅潮させている。
「べ、別に用なんてないんだからっ」
こんな風に誤魔化されるのはいい気がしないし、今までになかったことなのでなまえの観察をすることにした。
…ぼろをだすかもしれんしな。
俺の視線に気づいたのか、なまえは気まずそうな顔をしながら、俺の顔をチラチラと見る。
…なんつーか、そういう仕草、可愛いからやめてくれ。
「何よっ。」
「お前って、何か隠してる時に限って語尾を強調するよな。」
「そんなことな…いと 思う…。」
素直なのは良いことだ。悪く言えば単純…だが。
で、結局なんなんだ?俺がここまで一つの事にこだわるのはそう多くないぞ。
「言わなきゃいけないわけですか?」
いつのまにかなまえは読んでいた雑誌を横に置き、正座して俺を見つめていた。
や、だから、そういう顔するな。俺がイケナイことをしているみたいじゃないか。
「あからさまな態度をとるなまえが悪い。」
「流石キョン、痛いとこをついてくるな…」
何がだ。それに、そんな言葉一つで誤魔化されると思うな?
俺はお前と違って単純ってわけではないんだからな。
「…っ!じゃあ、言う…っていうか、訊くけど、」
「……」
「キョンは、その…、涼宮ハルヒって人と付き合ってるの?」
「はぁ?」
思ってもみなかった言葉に俺は間抜けな声を出す。
ハルヒと付き合ってるだと?
・・・ありえない。ありえなさすぎて笑えてくる。
ああ、一応言っておくが、なまえは北高ではない。
大して距離は離れていないのだが、どうやらハルヒのことは知らないらしい。
どこまで本当かなんてのは本人以外は知る由もないわけだが。
「ねぇ、どうなの?」
少々上目遣い気味に俺を見据えるなまえ。
ああ、だからそういうのをやめてくれ、俺はどうにかなりそうだ。
「付き合ってなんかいない。断言する。」
「じゃあ、好き?涼宮さんのこと。」
「どちらともいえん。」
「じゃあさ!私にもチャンスがあるってことだよね?」
「は?」
「キョンの彼女になるチャンス。」
執筆07/9/5
加筆08/11/20