その声で
「有希って名前、可愛いよね」
「そう」
「……」
放課後。団員でもないのにここへ来ることを義務付けられた私は、きっちり涼宮さんとの約束を守り、文芸部の部室にいた。
…でも、今ここには長門さんと私の二人だけ。
正直言って、長門さんが苦手な私。
ほとんど話したこともない人と二人きりなんて…。
「(い、居心地悪すぎだよ…)」
「……」
「ゆき…?」
「なに」
勇気を出して私がそう呼んでみると、
長門さんは読んでいるハードカバーの本から視線を逸らさずに言葉を返す。
なに。なんて言われても困るんだけどな。
…だって、この場の空気をどうにかしようと呼んでみただけだし…。
「有希って…き、きれいな名前だよね。好きだな、私」
色々思案し何かを言おうと努力するも、
結局気の利いたことも言えず、似たようなことしか口にできない。
「なまえも綺麗」
今度は私の目を見て長門さんは言った。
長門さんのイメージとその言葉が結びつかなかったせいか、私は更に混乱。
「え…?」
「私も、好き」
名前が綺麗。名前が好き。彼女がそう言っているのはわかっているのに、何故か顔に熱が集まる。
…これは、何だろう?胸が…苦しい。
その声で
名前を呼んで
09/7/8