甘い口付け


バレンタインデー。それは、女性が意中の相手へチョコレートを贈る日。
周りの女の子たちはキャーキャー騒いでいたけれど、私にはそんな余裕がなかった。
勿論渡す相手がいないわけではない。ただ…逢えないだけ。
私は社会人で、その相手は大学生。例え休講の日があっても私が仕事では逢えはしない。
時間があれば家にでも行って用意していたのを渡そうかと思ったけれど、そんな余裕さえなかった。

もうこんな時間だし、家につく頃には日付も変わっちゃってるんだろうなあ。




――…

マンションのエレベーターから降り、自分の部屋の近くまで行くとよく知った人の姿がそこにはあった。
厚着はしているのだろうが、どうか寒そう。一体いつからいたのだろうか。

「聖、何してるの?」
「あ、おかえりなさい。なまえさん」

そう言って座っていた聖は立ち上がる。
やっぱり、空気に曝された肌が寒そう。

「ただいま。理由はともかく早く中に入りなさい」
「え、あっ、はい」

素早く鍵を開け、聖を中に入れる。
この部屋は少し広いので暖房は少し強めに設定する。

「なまえさ…ごめんなさい」

聖は何かを言おうとしたが、私の顔を見るとすぐに謝る。
そんなに怖い顔、してたかな?

「来るなら連絡くらいしなさい」
「はい」

私が注意すると聖は情けない表情を見せた。
いくら年下でも、いい歳なんだからそんな顔しないでよ。私が悪いみたいじゃない。

「で、突然来た理由は?」
「…逢いたくて」

小さい声で呟いた聖は、いつになく真っ赤な顔だった。
そんな姿が堪らなく可愛く思えて、気がついたら抱きしめていた。

「なまえさ…」
「私も、逢いたかったよ…聖」

抱きしめていた手を放し、聖の顔をもう一度見ると少し驚いたような顔をしていた。
大方、聞こえていると思っていなかったというのが理由だろう。



「聖、過ぎちゃったけど、…ハッピーバレンタイン」

そう言って、聖の前にできるだけ綺麗にラッピングしたチョコをさし出す。
中には甘さ控えめのトリュフチョコレート(最初はケーキでも作ろうかと思ったけれど、自分自身があまり甘い物が好きでないのでやめた)

「おいしくなかったらごめんね」

聖はそれを受け取ると、乱暴に中身を出す。
まったく、デリカシーのない娘ね…。

「ん、おいひい」
「よかったわ」
「ね、なまえさんは食べたの?」
「食べてないわよ」

1つ食べ終えた聖は、私にそれを確認すると、何かを思いついたような楽しそうな表情を見せる。
身体が温まってきたからなのか、聖がいつものような元気を取り戻したようだ。

「なまえさん」
「ん?…んんっ!?!?」

何かと思って聖の方を見るが、唇をそれで塞がれる。
ああ、さっきの聖の顔で気がつければ…。

「ん…、んぅっ……ふあっ…」

唇を割って徐々に進入してくる聖の舌。
拒めないところがすごく悔しい。
抵抗しようと聖の舌から逃げようとするが、結局捕まってしまう。

「せ…い…あま…」

長い口付けの後、私は口を開くが又も口を塞がれる。今度は短いキスだった。

「そりゃ、私とのキスだから」

満面の笑みで自信満々に言う。やっぱりむかつくわね。

聖は自分の唇についたチョコを手で拭うと、今度は私の唇についたチョコを舐め取った。

「ごちそうさま」


08/2/16

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