そんな理由


「ねえ、詩音」

ベッドに寝転がり、雑誌を読んでいると、不意になまえの声が聞こえた。
私が視線を雑誌から逸らすことなく「何ですか」と返すと、今度は「こっち見てよ」なんて可愛らしい言葉を口にする。
そんな言葉を聞くと、余計いじめたくなるのはどうしてだろう。



「しーおーんー!」

さっきの言葉を無視しつづけると、いよいよ煩くなってきた。
しかたなく彼女の方へ顔を向ければ、そこには女の子座りで私の方を見ているなまえが。
ハムスターのように両頬を膨らませているのがとても愛らしい。

「あ…」
「何でいきなり黙るんですか」
「あ、いや、見てくれると思わなくて…」

……。
そんな相手に話しかけ続けるなんて、あなたはどこまでマゾなんですか。
ついついそんなこと言いそうになるが、ここは抑えなければ…
もしそんなこと言ったら、一週間くらい口を利いてくれない気がする。

「それで、一体何の用なんですか」
「あ…いや、大したことじゃ、ない…んだけど」

目を泳がせて言うなまえ。
そんな風に躊躇うなら、話しかけないで下さい

「あの、さ」
「はい」
「し、詩音って…キスするとき目開けてるけど…な、何でなのかなーって…」

なんだ、そんなことですか。
簡単な理由ですよ、なまえ。
私はベッドから降りてなまえに近づくと、顎に手を添えて口付ける。
突然のキスだから、勿論なまえは目を開けたまま…目だって自然と合ってしまう。

「っ…」
「いつだって、なまえの可愛い可愛い顔が見たいからです」

真っ赤に染まった頬を撫で、私はもう一度そこに唇を重ねた。


09/8/11

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