触れた手のぬくもり
「あっついなあ…」
まだ6月だというのに、今日は30℃越えの真夏日。そんな日の放課後、私は教室に一人でいた。
太陽の位置も徐々に低くなり、暖められた地表も少しずつ冷めてきたというのに、湿度のせいか私が感じている暑さは普通より幾分か高い。
地球温暖化め……と、抗いようもない現象に心の中で悪態を吐く。人を待っていたはずなのに、この暑さのせいで何だか帰りたい気分になってきた。ああ、それにしても遅い。
「ご、ごめんなまえ、待った……?」
「今帰るところです」
息を切らせて教室に入ってくる私の待ち人―― 園崎魅音。そんな様子を見て嬉しいと思ってしまう私は、相当彼女のことを愛しているのだと思う。
「ええっ、ああっ…ごめんね」
見てわかるほどにしゅんと落ち込む先輩。何というか、庇護欲をそそるような……そんな表情だ。
「うそです。先輩のこと待ってるの、私、好きですから」
「ふぇっ!?う……あ、……ありがと」
みるみるうちに真っ赤になってく先輩。やっぱり、可愛いな。
「それより、先輩。今日はどうして遅かったんですか?」
「あー、ちょっと、詩音に絡まれて……」
「そ、それは災難でしたね」
魅音先輩の口から出た名前に、私は乾いた笑みを浮かべる。だって、私は……
「あ、そっか……なまえ、詩音のこと苦手だったね」
先輩は私の表情につられて苦笑いをしてみせる。そう、私は彼女の妹である、園崎詩音が大の苦手だった。顔と声はそっくりなのに、どうしてああも違うのだろう。うああ、考えるだけで嫌な気分になってきた。
「だ、大丈夫?」
「へいきです。それより、早く帰りましょう」
心配させまいと、なるべく笑顔で言う。何故か先輩は顔を赤くさせたけど、気にせず歩き出した。
「なんか…いいですね」
「え?」
「ひぐらし、です」
暑いのは嫌だけど、ひぐらしのなくこの声をBGMに二人で歩くのは嫌いじゃない。こんな風に思えるのも、魅音先輩を引き止めた……詩音先輩のおかげかも。
「先輩、手……繋ぎませんか?」
「だ、だめ!お、おじさん汗掻いてるから!」
「拭けば大丈夫です!……ね?」
触れた手のぬくもり
(なまえがそんなこと言うなんて珍しいね。)
(そうですか……?私はいつでも思ってますよ、)
(え?)
(手繋ぎたいなあ。とか、キスしたいなあ。とか)
(え?え!?)
09/6/25