愛、怖れ


全く、全然、微塵も、塵ほども、毛ほども、これっぽっちも。……そんな言葉を使うまでには至らなければ、及びもしないけれど、なまえちゃんの自傷行為は、確実に回数を減らしつつあった。しかし、精神が不安定なとき、回数が減ったことへの反動のように、酷く自分を傷つけているようだった。
本心では今すぐにやめて欲しい。そんなことを言ってしまえば、取り返しのつかないことになってしまうのはわかってるのに。

「れな……?」
「うん、どうしたのかな?」
「ううん、安心しただけ」

無防備に笑うなまえちゃんに、心臓が高鳴る。寝起きだからしょうがない事はわかってはいても、そんな笑顔をみると、たまに……本当に極稀に壊してしまいたくなる事があった。

「今夕飯作ってたんだけど、食べるかな?かな?」
「うん!食べる。レナの料理大好きだもん」
「……その前に、なまえちゃんを食べたいな」
「え?」

ついつい漏れ出た言葉に、言った自分が衝撃を受ける。
なまえちゃんのことだから冗談で終わるだろう。杞憂に終わるだろう。なんて思っていると、なまえちゃんの顔がどんどん真っ赤に染まっていく。

「レナなら「なまえちゃん、今のは冗談だから聞き流しちゃっていいんだよ!」

私は必死だった。今の言葉を最後まで聞いてしまったら、冗談で済まされることが冗談でなくなってしまう。

「え、れな……んっ」

私は触れるだけのキスを贈るとなまえちゃんが寝ていた布団から離れる。


……今は、だめ。
これ以上彼女を傷つけるなんて、綺麗な彼女を汚すなんて

私にはできない。



09/5/3

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