線香花火


熱帯夜…とでもいうのだろうか、やけにじめじめして暑苦しかった。
寝ている間に出した汗の分だけ水分補給をし、再び寝ようとしたのだが、暑くて暑くてとてもじゃないが寝付けない。



「散歩でもするか」

眠気もなくなり、そろそろ目が冴えてきた。
夜中ということもあり家でやることもないため、俺は気分転換にでもと散歩に行くことにした。

「あつい…」

日が沈んでだいぶ経つというのに、何なんだこの暑さは…
Tシャツとハーフパンツ…そして、ビーサンという軽装だというのにこの暑さ。
肌にまとわりつく空気がなんとも不快だ。

「高須…くん?」

河川敷辺りに来た、そんな時だった。
背後から聞き覚えのある声。
だが俺が思っている通りのやつだったら、こんな時間に何を…

「みょうじ…?」
「あ、よかった。高須くんだ!」

こんばんは。と笑顔で挨拶してくるみょうじ。
一瞬、俺じゃなかったらどうしたんだ?と思う。
でも過ぎた今、それはどうでもいい。

「おう」
「こんな時間に何してるの?」

みょうじのその言葉に、お前こそ何してるんだ、と俺は問う。
すると、某猫型ロボット風に効果音をつけて何かを取り出した。

「線香花火〜!」
「……」
「あっ、なんか言ってよ、私ばかみたいじゃん!」

いや、実際バカっぽかったぞ。
春田並みに…

「ちょ!高須くん!せめて目を見て言ってよ!傷ついたよ私!」
「本当に傷ついた人間は自分で傷ついたなんて言わん!」
「わ、ひっど!高須くんひどい!さすが極悪ヅラ!」
「……」
「え、ちょっと…なに!?まじで傷ついちゃった系!?」

系ってなんだ!系って…!
目の前で慌てふためくみょうじを見て思う。

「別に平気だ。気にすんじゃねえ、慣れてる」
「そ…っか。うん、でもごめん」

ね、花火一緒にやらない?
ばつが悪そうなそんな表情で笑い、そう言うみょうじ。
…いいのか?

「うん、いいよ。高須くんに会わなかったらどうせ一人でやってたし」
「そうか」
「うん」

遊歩道からコンクリの階段を下り、そこに腰を降ろした。
ふと線香花火の袋を開けるみょうじを見る。…?手が、震えてる。

「おい、みょうじ…どうした?」
「え?う…あ、ど、どうしたんだろう」

それはこっちが聞きたい。
急によそよそしくなりやがって。

「は、はい、高須くん」
「おう」

明らかに変だ。
俺、なんかしちまったか?

「あ、あのさ!た…高須くん」
「おう」
「勝負しよ!…先に落とした方が、負け」

高須くんが勝ったら、1つだけ…何でも言うこと聞く。
私が勝ったら…聞いて欲しい話があるの。

それは…なんともありきたりな勝負だった。
だけど、みょうじの変な様子の理由が知れるのなら、受ける価値は十分にある。

「いいぞ。受けて立つ」
「うん」

ありがとう。
そう、小さく聞こえた気がした。
これは、俺の気のせいか…?

「じゃあ、いくよ」

いっせーの…
二人で声を合わせて花火に火をつける。

「綺麗…」
「ああ」

本当に…綺麗だった。
ずっと、ずっと、このまま…消えずに咲き続けるんじゃねえかってくらい、綺麗だった。

「いい勝負だな」
「う…うん」

俺の言葉にみょうじが肩を震わせる。
あ、と思わず声も漏れた。
…だが、時既に遅し。
みょうじの線香花火の先端についていた火種は、地面に吸い寄せられるように落ちていた。

「わ、私の…負けだ」

困ったようにみょうじは言うと、小さく笑う。
何故だか、それがほっとしたようにも見えた。

「高須くんの勝ち。なんでもいいから言ってみて」

俺は…俺は…
「お前が…みょうじが勝ったら言おうとしてたこと聞く。ていうか、言え!」

気になってまた眠れねえ…絶対。

「え、ええ?こ、心の準備が…!(どうしよう、今きゅんてした…!)」

心の準備…?
なんだそれ、余計気になるじゃねえか。

「うん、でも言うよ。高須くんが勝ったんだもんね、」

えっと、大切な…大事な話です。
でも、それに対する返事はいりません。
「というか、聞きたくないです。拒否します」
「お、おう」

大事な話、そう聞いて俺の身体は強張る。
きっと、今の俺の目はギラギラしていることだろう…。

「あ、う…」

ごめん!あっち向いて聞いて!
真っ赤な顔で俺の背中を両手で押すと、みょうじはそう叫ぶ。
な、何だ?そんなに恐ろしい顔してたか…!?

「私、不肖みょうじなまえは!た…たかっ…高須くんが…すき……です。…以上!」

みょうじはそう言って、すぐに走り出した。
というか、今…俺、告られた…?








(触れられた背中が熱い)


09/8/23

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