私だけしか知らない貴女を見せて


衣替えの季節だと実感させてくれる暖かい日差しに、嵐の前の静けさならぬ、梅雨の前の静けさとでもいうかのような、程良く乾燥した爽やかな風。
そんな中、なまえは広いリビングにあるソファで昼寝をしている。
整った顔立ちだからか、とても絵になっていて…近寄り難く、まるでそこだけが違う世界のよう。

…なんて気取ってみるけど…うん、亜美ちゃんらしくなくて馬鹿みたい。

「亜美ちゃんまじつまんねえんだけどお」

そう言って、なまえの頬にぐりぐりと人差し指を突き刺しても起きる気配もない。
こいつは毎週毎週こうで本当にむかつく。
付き合いが長いからって気をつかわなくなるとかそういうのってない。(老夫婦かっ!)
女優仲間などにはこういう関係が「うらやましい」とか言われることもあるけど、理解に苦しむ。

「さあ、どうしてやろう」

ふう、と息を吐き、蹴り飛ばそうと思い立つ。
しかし、立ち上がったところでなまえは目を覚ました。
…やっぱりむかつく。すっげーむかつく。

踏み潰そうと脚を上げると、
今日は黒なんだね、誘ってるの?となまえ。
あながち間違ってもいないのでそうね、誘ってるわよと返す。

「ガタッ!!!!!」

口で言うな口で。
それに、誘ってるのは買い物!
あんたの頭の中にはセックスしかないの!?

「すみませんでした、お姫様」

結局蹴飛ばされたなまえは、ソファに座るあたしのの足元で這い蹲っている。
手持ち無沙汰なので、今度こそ踏み潰した。

子犬みたいな目でこっち見たって、全然…可愛くなんてないんだから(そんなの、うそ)

「で、行くの?行かないの?」
「…行かない」
だって面倒臭い。

そう言うと思った。
こいつは昔からこう。なんでも面倒臭がって結局何もしない。(進んでするのはセックスくらい)
あたしといるのも断るのが…断った後のことが、面倒だったからだったりして。

「麻耶と奈々子も呼ぶから」
「うっ…」

友人の名前を出した途端に、そうやって悩む素振りがあたしを不安にさせる。それとも確信?わからない。
あーあ、本当にむかつく。…こんな奴のことこんなにも、どうしようもないくらい好きなあたしが。
行き場のない嫉妬心を無理矢理押さえ込む。

「悩む…けど行かない」

少しほっとした。
出かけたかったはずなのに、否定されて安心した。
もしかしてあたしは、

「亜美、変な顔」
「これでも女優なんですけど」
「知ってる」
亜美が今嫉妬したのも知ってる。

なまえの言葉で顔に熱が集まる。予期せぬ言葉。
けれど、気付いてもらえて嬉しかった。

「亜美、顔真っ赤。可愛い」

大人になってからあまり言われなれない可愛いという単語に今度は身体の中心が熱くなる。
何度でも言う。むかつくむかつくむかつく。
どれだけ自分があたしに好かれているかわかってるところがむかつく。

「言っておくけど、私のが嫉妬してるからね」
「は?」

何千、何万、何億の人に亜美は見られてるんだろう。そう思うと気が狂いそう。
だから、休みの日くらいは私だけの物になってよ、亜美。
ほら、











13/6/2

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