それはまるで媚薬のような


「……」

大きなぬいぐるみを胸に抱きしめ刺すように見つめてくる亜美。
それだけで不気味だというのに無言、無表情ときたもんだ。

「何かあるなら言って?すっごく気になる…」
「べつに…」

ぷいと顔を逸らし、ただ…と続け眉をひそめる。
何だよ、あるじゃん。

「やっぱ何でもない」

怪訝な顔をして小さくため息を吐く亜美。
なに、それ…あたし何かした?

ため息を吐きたいのはこっちだ…
そんな高揚する感情を抑えるために淹れたばかりのコーヒーに口をつける。

「……」

するとまた亜美の視線を感じた。

「なに」
「…よく水みたいに飲めるわね」

少し聞き取りにくい大きさの声。
なんだ、そんなことか。
亜美の隣に座り込み苦笑い。
でも

「亜美だって飲むじゃん」
「あ、あんたみたいにたくさんは飲まないわよ」

…ふうん、なるほど。
あたし…わかっちゃった、亜美の言いたいコト。

だって…
少し赤く染まったその滑らかな頬、忙しなく泳ぐ大きな瞳。
こんな魅力的な表情をするのは決まってあたしの事考えている時だけだから、…嬉しいことに、ね。

「その言葉の意味は」

キスが苦いのが嫌…ってことかな?
にやと笑いあたしはそう言う。
そして、亜美が驚きで身体を震わせたのを確認し強引に口付けた。

「にがい…」
「甘い」

二人で正反対のことを口にし、ゆっくりと離れる。
目を合わせようとしない亜美が可愛くて、愛おしくて、ぎゅっと抱きしめた。
最初は抵抗するもののすぐに大人しくなる亜美。
そして、力なくあたしの背中に回された腕にきゅんとする。

「なまえ…」
「ん?」
「なまえ…」
「なあに」
「…口が寂しくて…その……飲んでるんだったら、」

亜美ちゃんがいつでも…キス、してやってもいいわよ?


09/9/24

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