ねえ、先生。
朝のショートホームルーム。あたしは特に何かするわけでもなく、左手で頬杖をつき右手人差し指に髪をくるくると巻きつけていた。
席も窓側一番後ろだし、話を聞いていなくても大して咎められないだろうと判断しての行動だ。
「(なまえ…今日から教育実習って言ってたっけ)」
そんな中、ふと思い浮かぶ恋人の顔。
有名私立大学の教育学部に所属する彼女は、今日から教育実習だと言う。
スタイルも良くて…美人で…とにかく、あたしが認めるくらいの女である彼女が、異性に興味津々である男子高校生に目をつけられないはずがない。
そんな心配のせいで、イライラは募ってゆくばかり。
「(せめて高校の名前くらい言っとけっつの…)」
「はーい、みなさん静かにして下さーい。嬉しいお知らせがありますよー!」
なんと!このクラスに教育実習に来てくれた方がいまーす!
え…もしかして…
「女子!?」
「春田くん!よくぞ聞いてくれました!ピッチピチの女子大生です!」
しかも美人ですよ。
…そんな言葉を聞いて、期待しないわけがない(つーか、ピッチピチって死語じゃね?)。
なまえかもしれない。という気持ちが大きくなり、頬杖をつくことさえも忘れ、あたしは視線を教室前の扉にやっていた。
「それでは入ってきていいですよー!」
先生のその言葉に、ゆっくりとした動きで扉が開く。
みんな(主に男子)の唾を飲む音が聞こえたような気がした…
「おはようございます。今日からこのクラスでお世話になるみょうじなまえです。短い間ですが、よろしくお願いします」
顔も、声も、名前も、纏うその空気も…みょうじなまえ、本人だった。
驚きとか、嬉しさとか、そんなたくさんの感情が溢れてきて言葉にならず、あたしはなまえを見つめることしかできない。
しかも、それに気付いたなまえがあたしを見て微笑むから、少し…本当の本当に少し、どきどきしてしまった。
いっつもいっつも……ずりーんだよ…。
――…
場所は変わって、なまえの部屋。
あたしは彼女のベッドに潜り、顔を枕に沈めていた。
いつものことなのに、さっきまで教室で先生と呼んでいたなまえの家にいると思うと、違う意味でどきどきする。
不意にベッドが沈み、スプリングが軋んで音をたてた。
「亜美、怒ってる?」
その言葉と同時にあたしの後頭部に何かが触れ、その上を行ったり来たりする。
子供扱いすんじゃねーっつの。
「怒ってない」
「そっか…良かった」
枕越しになまえの顔を片目で伺い見る。
やば、可愛い…。
「っ…!」
「…何で目逸らすのよ」
「だ…だって亜美が可愛い顔でこっち見るから…!」
「(可愛いのはどっちだっての)」
真っ赤な顔してそう言うなまえ。
両手で隠してるつもりなんだろうけど、耳まで赤いからバレバレ。
「顔、見せて」
なまえの右手を掴んで引き寄せる。
「ねぇ、せんせ…あたし、先生のこと……すき」
「…っ」
耳元で囁くと、何か危険を察知したのか
びくっと身体を震わせ、なまえは怯えたようにあたしを見た。
ふうん、いい勘してるじゃない…。
あたしはにや、と笑いなまえを引き込みベッドに組み敷く。
「なまえ…」
「ぁ…」
年上のくせにこんなに可愛いなんて反則だ。
ぎゅっと目を閉じて待つなまえを見てそう思う。
「んぁっ、…ふぅ……んッ………あ…みィ、」
あたしたちの夜はまだこれから…。
覚悟しなさいよ、なまえ。
09/8/23