アプローチは計画的に
「あみぃ…」
濡れた瞳、濡れた唇。
いつか、あたしが高須くんに迫った時のような状況。
相手がシラフだったらこのまま押し倒して襲ってやりたいところだけど、目の前のコイツからはお酒の臭いが漂っている。
酔った人間を襲う趣味もなければ、付き合っているわけでもない相手を犯すわけにはいかない。
「ねえ、あみってば…」
あたしが少し動けばキスができてしまいそうなこの距離。
なまえがしゃべるたびに吐息が顔にかかる。
ねえ、あみ…ねえねえ。
同じ言葉を繰り返し、あたしに構って欲しいのか、つついてきたり服の裾を引っ張ったりしてくる。
「…なんだよ」
近いっつの…。
あたしが理性と戦っているのを知ってか知らずか(絶対後者だけど…)、なまえはあたしの返事に笑顔になった。
「っ…!」
「ちゅーしよ」
なまえの手があたしの頬に触れ、
目を瞑ったなまえの顔が近づいてくる。
好きだから触れ合いたい。
抱きしめたい。
…キスだってしたい。
でも、これは違う、あたしが求めているのはこんななまえじゃない。
酔った勢いに身を任せて関係を持つなんて絶対に嫌だ。
「ねぇ、亜美。…あたし、酔ってないよ」
そんな中聞こえてきた声。
それはさっきまでとは違う、しっかりとした声。
あたしは驚いて声をあげたが、その言葉はなまえの唇によって遮断された――。
09/8/4