好きじゃない


「ねえねえ亜美ちゃん喉かわいちゃった〜、何か買ってきて?」

定番と化した亜美のその言葉。
そのせいで私は自販機の前まで来ていた。
…一応言っておくが、私はあいつのパシリではない。

「朝からご苦労なこった」

小さくため息をつくと、疲れきった表情の高須が現れた。
その言葉、…そっくりそのままお前に返してやるよ。

「そりゃどうも」

高須は買ったばかりの缶コーヒーを手に、自販と自販の間に座り込む。
…って、あれ…そこって亜美の隙間なんじゃなかったか?

「なんだよ、その川嶋の隙間ってのは…」
「いや、なんでもない」

亜美に怒鳴られる気がしたが、私も買った飲み物を手に高須の前に座る。
さあ、互いに世話のかかる女共の愚痴でも言い合おうじゃないか。

「何言ってんだよお前」

眉間にしわを寄せた高須に笑われる。
…ああ、そうか。
お前は逢坂に従順な"犬"だからこぼす愚痴すらないのか。

「お前なあ…」

頭痛がするのか、高須は米神辺りを押さえ息を吐く。
そんな姿におじいちゃん的な何かをみた私は思わず大笑い。
…高須に悪いのはわかってるつもりだが、どーしても止まんない。
くくく…っ。

「わ・ら・う・な!」

いつまでも笑っている私に、恥ずかしくなったのか高須は私の頬を抓る。



――…



触れた頬はとても柔らかく、
目に浮かんだ涙と手から伝わるその感覚と相まって、非常に危ない。

「…高須、顔赤いぞ」

しかもそれを元凶であるみょうじに突かれることにより、更に恥ずかしさは増す。
な、なななな、何だよこれ…!

「高須?」

俺が好きなのは櫛枝だろ!?
櫛枝、櫛枝櫛枝櫛枝櫛枝櫛枝櫛枝あああああ!

「な〜にやってるのかなあ?」

なんて、俺が自分と葛藤していると、そこには不気味な笑顔を浮かべる川嶋がいた。



――…



遅い遅い遅い!
何やってんのよあのばか女!
…って、あれ?
さっき、高須くんもタイガーのお遣いに……
…あああ、いらいらする(あああ、心配だ)

「(こんなにこんなに可愛い亜美ちゃんを待たせていいと思ってんのかよ!)」

本心ではそんなこと思ってない。
ただ、心配なだけ。
ヤンキー高須といえど、男は男だ。

これだけ亜美ちゃんを待たせたんだから絶対殴ってやる。
(訳:これだけ亜美ちゃんを心配させて何もなかったら絶対殴ってやる)

「(何かあっても殴るに決まってるけど!)」

あたしは走って自販機のある別棟の二階に向かう。
二年の教室からは近いのに、こんなに急いでるなんて、…あたしらしくない。

「わ・ら・う・な!」

あと一つ角をまがれば…というタイミングで高須くんの声が聞こえる。
…確かに、なまえは大笑いしていた。

「(何よ、あいつ…あたしがこんなに心配…って、心配なんてしてねーっつの……)」

誰も聞いてないというのにあたしは自分の言葉を否定する。
なんで、亜美ちゃんばっか……

「…高須、顔赤いぞ」

そのなまえの声で、あたしは足を止めた。
…頭に血が上っていく感覚。

「な〜にやってるのかなあ?」






色んな意味で高須くんをぶちのめし、清々しい気分。
…のはずなのに、あたしはもやもやしていた。

「亜美、心配して来てくれたのー?」

何かを確信したような表情でなまえは笑う。

「はあ?…ばっかじゃねーの……」
「そっか、そう思ってたのは私だけかあ…」

こんなに亜美のことが大好きなのに。
恥ずかしげもなくなまえはそう言うと、寂しそうな顔をする。
亜美ちゃんばっか好きみたいじゃん。
なんて、少しでも思ったあたしはやっぱりばかだ。

「…き……」
「え?」
「す…すすす、すきだって言ってんだっての…」
「知ってる」

いつ言ってくれるかと思って待ってたんだよね。
満面の笑みで幸せそうななまえ。
…あ、なんか今、すっげーいらっときた。

「…うそだけど。亜美ちゃん、なまえのことなんて好きじゃねーし」

あたしの言葉にきょとんとした表情になる。
そして、すぐに笑いだした。
な、なによ。

「いーや、何でも…ただ、"嫌い"って言わない辺りが、亜美らしくてかわいーな。って」

そんなに私のこと大好きなんだ。
と、余裕の表情でからかってくる。

「私も亜美のことだーい好きだよ」
「だ、だからあたしは好きじゃねーって言ってんだろ!」
「素直じゃないなあ…」

そんなとこもすきだけど、やっぱり言葉にしてほしいな。
きゅう、と弱い力であたしの手を握り、なまえは俯く…
あたしはそれを力強く握り返す。

「このまま…授業、サボろっか」

その言葉に、あたしは小さく頷いた。


09/6/14

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