罠にはまる。


「亜美、ここに着替え置いておくよ」

扉を一枚挟んだ向こう側から聞こえるシャワーの音。
しかもそこに、恋人の亜美がいると思うと、妙にドキドキする。
"突然の雨に降られたから"そんな理由で亜美に私の家に上がってもらうなんて、思ってもみなかった。

亜美の返事を聞き、そこから離れようとすると、背後から大きな音が聞こえる。

「亜美?」
「……」

名前を呼んでも返事をしないことを不思議に思った私は、おそるおそる振り向こうとする。
…が、亜美に勢い良く右腕を引かれたことによって、無理矢理彼女と向き合う形になった。

「あ…み?どうしたの…」
「……に………ない…かな?」

"らしくない"表情。
小さな声で何かを言うと、亜美は涙を一粒零す。

「え?」
「あたし、そんなに、魅力…ない……かな?」
「え、ちょっ」

亜美は私の肩に両腕を置き、

「ねぇ、……キス、して」

と、言った。

上気した頬。少しだけ上がった息。
視界に入る、亜美の白い肌の色に…私は理性を失いかける。

「…ぷっ、きゃははははーっ!なにそのかお、けっさくー!」

大口を開けて笑う亜美。
ちらちらと目に入るその肌はかなり目に悪い。

「だ、だだだだだって今…!」
「涙のこと?やーん、そんなの亜美ちゃんの演技に決まってるでしょ?」

亜美はそう言うが、本当にそうだろうか、
亜美はいつも嘘をつく。何が本当で、何が嘘なのか、わからなくなるくらいに。

「亜「ごめん、…うそ」

思ってもみなかったタイミングで私の耳に入ってきた言葉。
聞き間違いかと思い、「もう一回言って」と言うと亜美の顔はすぐに真っ赤になる。
ああ、やばい。可愛すぎる。

その反応を見てさっきの言葉が"本当"だということを確認すると、私はその小さな唇に口付ける。
何度も何度もそれを繰り返し、ようやく開放してやると、亜美は小さく息を漏らした。

「亜美ごめん、…とまらない」
「いいよ、なまえ」

でも、ベッドじゃなきゃやだな。
そう言って亜美は悪戯に笑った。


09/6/5

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