黙っていれば可愛いのに


黙っていれば可愛いのに。
そう思った事が、何度あっただろう。

「黙ってないで何か言ってくんな〜い?亜美ちゃん退屈ぅ」
「人の家に勝手に上がり込んでおいて何なんだその言い草は」

大体、転校初日から愚痴りにくるとは何事だ。
俺は祐作みたいにお前に優しくしたりなんかしないぞ。

「はあ?祐作のどこが優しいわけ?」

どこからか出したのか、得体の知れない道具で爪の手入れをしながらいつもの調子。
「つーか、今あたしが不機嫌な原因は祐作なわけ!」と言うと、満足したのか、うっとりとした表情で長々と自分の爪を眺め、急に立ち上がった。

「祐作?……また何かしでかしたのか、あいつは……っておい、仮にもここは男の部屋だぞ……」

部屋の奥にあるベッドに勝手に寝転ぶ亜美に声をかける。
何の躊躇いもなく、男の部屋でこんな事ができるのはこいつくらいだろう。
……何があっても知らんぞ。

「男お?……あたしに手を出す勇気が、なまえにあるようには見えないけど?」
「お前な……」

突き刺す様な亜美の疑いの視線。(すまん……確かに俺には無理だ)
ただでさえ、整った顔に睨まれるのは恐ろしいというのに、亜美のそれは無表情で、恐怖を増し増しにさせる。
しかし、その表情もすぐに破綻し、亜美は独り笑い出した。

「なんだよ」
「べっつに〜」

情けない顔をしていたであろう、その表情から読み取ったのか、亜美は俺に見下すような目を向ける。
取り繕うように咳払いをすると俺は気付いてしまった。

「お前……何見てるんだ?」
「何って……エロ本?」

いつの間に見つけたのか、隠してあったはずのちょっと肌色の多い本を広げる亜美。
見るのは勝手だが、時々何かを確かめるように「ふうん」と言いながら俺に視線を向けるのはやめてくれ!

「ねえ、なまえ。この一番新しいやつに出てくる女の子……あたしに超似てない?」

「まあ、亜美ちゃんの方が可愛いけど」とにこやかに言う亜美に、俺は苦笑いしか返せない。
確かに、亜美にそっくりなんだ。……けどよ!

「お前、何でそれが一番新しいって知ってんだよ」
「あは」

満面の笑みで誤魔化そうたってそうはいかない。
正直、可愛いのも認める。だがそれはそれ、これはこれ、だ。

「二度と来んじゃねえー!!」

亜美の学生鞄とローファーを引っ掴み、俺は亜美を外に放り出した。



本を持たせたままだと気付くまであと十数秒。


09/4/19

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