君の心に触れたい


人間、何か良くないことがひとつでも起こるとそれが何度も続くことってあるよね、えっと……負の連鎖ってやつ?
今まさに私はその状況にあって、気分が良くないことから始まりそれが原因か、普段から勉強してないのが原因か、小テストの結果が良くなかったり、上り階段で転んで膝を打ったり……そんな小さな不幸が積み重なって、ただでさえ良くない気分がどん底に落ちていた、そんな時だった。
川嶋さんが私に声をかけてきたのだ。
編入して来て以来ずっとクラスの中心にいるそんな彼女に、クラスの隅っこの方に居る私が声をかけられるなんてどんな奇跡だろうなんて思ったけれど、そうか!これも何かの不幸の前触れなのかも……なんて思うと納得できる。うんうん。
けれど、今度の土曜一緒に遊ばない?なんてそんな言葉まったく理解ができなかった。だって川嶋さんには竜児くんたちがいるでしょ?


「うう……不幸だ」

いざその土曜日になってみると、なんと私は風邪をひいた!やっぱり負の連鎖は途切れていないようで、悲しい気持ちになる。折角あの川嶋さんとお近づきになれるかもしれなかったのに。
しかたなく事前に聞いていたLINEでメッセージを送るとすぐに既読が着いた。こんな朝早くに起きてるなんて川嶋さん健康だなあ。

『ごめんね、風邪ひいちゃった。申し訳ないけど今日行けそうにないや』
『わかった。何が欲しい?』

既読が着いてすぐ返って来た言葉に首を傾げる。あれ、風邪ひいて熱出して脳みそまで融けてしまったのだろうか?寂しくてひと肌が恋しすぎて都合の良い夢でも見てるのだろうか?だったら早く起きて川嶋さんに今日行けない旨を伝えないと。なんて回転の遅い脳みそで考えていると、川嶋さんから追い打ちのメッセージが届いた。

『ごめん、親がいるだろうからそんな気遣いいらないわよね』
『今日おやいない いまおなかすいてないの 川嶋さんがきてくれるならそれがいちばんうれしい』

夢なら早く覚めて欲しい。でも夢なら川嶋さんとお近づきになってみたい。そんな思いが交差する。
ああ、でも夢だからといって川嶋さんが来てくれたら私はどうしたらいいんだろう。そんなことを考えながら私は意識を手放した。







ひんやりとした感覚で目を覚ます。目を開ければ、それは川嶋さんの柔らかな手。しばらく状況を飲み込むのに時間がかかったが、理解するやいなや私の体はびっくりするほど跳ね上がり後ずさった。
え?あれ?夢じゃなかったの?ていうかどうやって。

「タイガーに聞いた。住所も鍵の場所も」

私のあまりの動揺っぷりに、察した彼女はそう言う。そういえば逢坂さんともこういうことがあってから鍵の場所を替えるのをすっかり忘れていた。

「体弱いんだから気をつけなさい。……だって、仲良いのね」
「そういうのじゃない、たまたまだよ。私みたいな日陰者、逢坂さんが相手してくれるわけ
「じゃあなに?みょうじさんはこの状況もたまたまだって言うの?」
「うーん、川嶋さんの気まぐれ、かな?」

ぽんぽんと私がさっきまでいた場所を叩かれ、暗にきちんと寝なさいと言われる。聞きわけ良く布団の中へ戻ると肩まで掛け布団を掛けられ、川嶋さんは不機嫌そうに口を開いた。

「あたし、そこまでお人好しじゃないつもり」

それは……知っている。昔の川嶋さんだったら絶対にこんなことしてくれなかったはずだ。だからこそ、わけがわからなかった。

「あたしもわけわかんない。気付いたらみょうじさんを目で追ってるし、風邪だって聞いたら居てもたってもいられなくて、来てくれたら嬉しいなんて言われて浮かれて。今までこんなバカになったことないからあたしもこの状況がなんなのかわかんない。……なによこれ」

立て続けに嬉しいことを言われてふわふわした気分になる。今までの小さな不幸にしては大き過ぎる幸せにちょっと不安になるけれど、こんな川嶋さんが見れるなら今までの不幸もまだ続くかもしれない不幸もなんだか有難味のあるものに思えて来た。

「私、あまり人付き合い得意じゃないからわからないけど、そんなにすぐ答えを出さなくてもいいんじゃないかな」

あまり働かない頭でもわかる川嶋さんからの好意。それがどういう意味を持つものかわからないけれど、私も彼女と同じようにこれからどうなっていくかわからないこの暖かい気持ちを持っているからこそ、それを大事にしたい……だから。

「ゆっくり一緒に考えよう?」
負の連鎖はきっと途切れた。


17/4/12

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