嫌いななまえ


「幸之進!」
「は?……ああ、みょうじか……って、ハリーって呼べって言ってんだろーが!」

大ッ嫌えな名前を呼ばれ、イラっとしながらも振り向くと、最近仲良くなった女子がいた。コイツには名字と愛称しか教えた覚えはねえのに、次会った時には既にオレの名前を知っていた。(後になってわかったが、コイツは西本とあかりの親友だった)
それがどうにも気になって、前に「何でハリーって呼ばねえんだ!」と訊いたことがあったが、「だって幸之進ってかっこいいじゃん!と意味不明の返事。
ロックの申し子であるこのオレ様が幸之進なんて名前ありえねえとか思ってたけど、こん時ばかりは素直に嬉しかった。いくら仲の良いヤツでも、そう呼ばれた時は頭に血が上ってぜってえ怒鳴ってたのに、廊下ですれ違えば声をかけ合うくらいの仲だったみょうじに呼ばれただけでこんな気持ちになるなんて、オレ、どうかしてる。

「もっかい訊くけどよ」
おまえ、何でオレのこと幸之進って呼ぶんだ?

声色を変え、真剣に問う。顔も強張って眉間に皺が寄るのがわかった。
……ここまできてふざけて答えやがったら、オレはコイツに二度とその名前で呼ばせねえって決めた。

「だって、幸之進は幸之進だから……」

――そうでしょ?
そんな意味を含んだような瞳で見つめられる。
最初はふざけてんのかと思ったが、みょうじの目はありえねえくれえ真剣で、圧倒されたオレは息を飲む。
なんだよ、こいつ。まじ意味わかんねえ。

「ね、幸之進。一緒に帰ろ?」
「……パス。今日はひとりモードなんだよ」
「女の子を1人で帰らせる気?」
「……」
「佐伯くんと志波くんなら絶対送ってくれるのに……」

みょうじはそう言うと、オレをジト目で睨みつけてくる。
「あ、でもそれはあかりがいたからか……」なんて小さく何か言ってたようだが、佐伯とか志波とかそんなのオレは興味ねえ。

「しょうがねえな、今回だけだぞ」
「ほんと!?……ありがと!幸之進!」

オレの言葉にみょうじは笑顔で答えるとオレの腕を引っ張る。
派手にずっこけそうになったものの、不思議と嫌な気はしなかった。


執筆09/3/19
加筆16/10/9

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