他の人と一緒はいや


 外見のせいかおかげか、強引に物事を進めても、大抵の場合簡単に受け入れられてしまう。
 そんな私が、今こうして拒絶される事を前提にこれからの事を考えていると思うとなんだか可笑しくてたまらない。
 ……なんて、そんな事を口に出しでもしたら「世界が狭い」ってにこには怒られちゃうかも。

「きゃっ」
「ごめんなさい……大丈夫?」
「か、会長!こちらこそすみません大丈夫です!」

 資料として借りていた本を返すために、図書室へ寄ると、出入り口で生徒とぶつかった。よほど急いでいたのか、二年を示す赤いリボンとお揃いの真っ赤な顔で元気に返される。
 このまま廊下を走りそうな勢いだったので、「廊下は走っちゃだめよ」とたしなめれば、彼女は恥ずかしそうに「はい」と返事。ふふ、素直な子は好きよ。

 気を取り直して、ドアが開いたままの図書室へ視線を向けると、こちらを見つめる視線と私のソレがぶつかった。私とは全く違う、日本人らしい綺麗な色のその瞳に、何故だか息が詰まる。
 この外見のせいで、人からの視線には慣れていたつもりだったけれど、彼女のその視線には何故だかそわそわした。

「みょうじさん……貴女図書委員だったのね」
「うん。絢瀬さんは返却?」
「そうよ、お願いできるかしら?」

 逃げようのないこの状況はラッキーかもしれない。なんて少し失礼な事を考えた私は、ふと彼女が持っていた物が気になって、カウンターの上に身を乗り出して覗き込む。(海未がいたらはしたない!なんて怒るでしょうね)
 未だ決めかねていたアプローチの方法の手助けに、読んでいる本の話でも……と思ったのだけれど、それは開封済みの手紙だった。
 この間の手紙は意外にもゴミ箱直行だったものだから、評判とは違い"そういう事柄"に関しては冷たい人なのかと思っていたのだけれど、そうではないのかもしれない。

「それ、もしかしてさっきの子から?」
「うん、ありがたい事にね」
「この間は読まずに捨てたみたいだけど?」
「ああ、あれ?」

 「言っていいのかな」なんてぶつぶつと言うみょうじさんが不思議でつい瞳を見つめてしまった。……やっぱり落ち着かないわね。
 すると、みょうじさんは少し頬を朱に染めて「あれ、希のいたずらなの」と言う。なによ……その顔。
 まるで恋をしているかのようなその顔に、何故だか不満感が込み上げた。

「あ、なんかごめんね。希が一番好きなのは絢瀬さんだと思うよ」

 私の表情を見てそういうみょうじさんは、今度は顔を青くしている。別にそういうのではなくて……私はただ。……ただ、なに?
 自分自身の初めて味わう感覚に戸惑う。私の前で、そんな顔で、他の人の話をして欲しくないなんて、あまり他人を名前で呼ばないあなたに名前で呼んで欲しいなんて、そんな。

「ねえなまえ」
「え?」
「私の事、絵里って呼んでくれないかしら」


16/9/11

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