眠り姫におはようの口付けを。


寒かった冬に終わりを告げ、暖かい春がやってくる頃。
スピカの白い制服を身に纏い、真っ直ぐで艶のある長い髪を揺らしながら速足でいちご舎へ向かう少女がいた。

「なまえお姉様。いらっしゃいますか?」

慌ただしく部屋のドアをノックし、そう言う少女……南都夜々は返事がないことに対し、小さくため息を吐く。
「一体どこに……」と言いかけたところで彼女はなまえの部屋の鍵が、不用心にも開いていることに気がついた。不躾であることを承知で夜々は恐る恐る部屋の中へ足を踏み入れる。

夜々はその部屋の光景を見て、先程とは比べものにならない程呆れた表情で大きなため息を吐いた。外はまだ明るい。それなのに、なまえは気持ちよさそうに眠っていたのだ。
そういえば、なまえお姉様の素顔を見るのは初めてかもしれない。と夜々は思う。二人が初めて会った時も地味な縁の眼鏡をかけており、顔はまったく見えなかったという。正直なところ、夜々はなまえを地味で変な人だと思っていた。けれど、だんだんと心惹かれている自分がいた。人を顔で判断するなんて良くないけれど、すごく綺麗な人だったのね……眼鏡を拾ってよかった。と、考えが一転していた。

「好き……」

無意識に漏れた言葉に夜々ははっとする。しかし、目の前の誘惑には勝てず、なまえの顔に引き寄せられる夜々。
「眠り姫は王子様のキスで目を覚ます。それを試してみたくなる状況ね」と小さく呟くと、彼女はなまえの唇と自分のそれを重ねようとした。しかし、

「ん……あ、まね……」

なまえの寝言により、中断される……が、どうして私好きな人たちはみんな天音様のことっ……!という怒りに震える夜々はすぐに行動を再開し、容赦なく寝ているなまえに口付けた。それは、優しいわけもなく……噛みつくように、奪うように激しく。

「んん……」

なまえは妙な息苦しさに目を覚ました。それに気付いた夜々はゆっくりと名残惜しそうに離れる。

「夜々?」
「……ごきげんよう。なまえお姉様」
「ごきげんよう。じゃなくて、なんで夜々がここに?ていうか今何しっ」

夜々はなまえの言葉を「うるさい、黙れ」とでも言いたげに遮り、再び唇を重ねた。
そして、何事もなかったかのように「眼鏡を届けに来ました」と用件を伝え、お礼の言葉を受け取ると、

「では、今日はこれで失礼します」
「え、あ、ちょっと夜々!?」

そう言い残してなまえの部屋を出て行く。

「何なのこの感じ。どうして私がこんなにドキドキしてるのよ……」


執筆07/3/21
加筆16/10/5

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