その先にあるもの


「響子ちゃん」

待ち合わせ場所で手帳を広げ、何か考え事をしている響子ちゃんに声をかける。邪魔をしたのではないかと、少し不安になるような静寂の後。手帳を閉じ、響子ちゃんは伏せた視線を上げた。

「早かったのね、みょうじさん」
「響子ちゃんに少しでも早く会いたくて」

彼女の問いに恥ずかしげもなく素直に返すと、響子ちゃんは驚いたような表情をした後「いつも一緒にいるじゃない」と、はにかんで頬を赤らめる。
そして、それを隠すように彼女はわたしに背を向け、歩き出した。
何この可愛い生き物……

「ああ、待って響子ちゃん!」

置いていく素振りをまったく感じさせない、ゆっくりと遠ざかる背中に叫ぶ。
少し小走りになって追い付けば、わたしが傍にいるのを確認した響子ちゃんが唐突に口を開いた。

「もうすぐ一ヶ月だけれど……何か希望はある?」

一ヶ月?
突然の質問に、咄嗟に疑問符を付けて言葉を返してしまったが、すぐに真意に気付く。そういえば、付き合ってもうすぐ一ヶ月だ。
しかしながら、響子ちゃんがそのような事を気にするとは予想外。もしかしたら、わたしの事を気遣っての事かもしれないが、わたしは記念日とかイベント事とかを気にしたりしない、面倒臭くない女なのだ!どん!
だが、今回に限っては別だった。

「そうだなあ……」

歩みを止め、わざとらしく考える振り。
わたしにあわせて立ち止まった響子ちゃんの視線を感じ、緩んだ頬を必死に隠した。別に変な事を考えているわけではない。……そうだ、響子ちゃんが可愛いのがいけないんだ。

「下の名前で呼んで欲しいかなあ」

期待を込めた笑顔で言う。
わたしは割と早い段階で響子ちゃんと呼ぶようになったが、彼女は未だに呼んでくれないし、これはいい機会だ。

「……なまえお姉さま」

何を思ったのか、とんでもないことを言い出す彼女に唖然。
確かに普段、先輩風を吹かせて後輩らしくしろおらおらとはやっていたが、同い年なんだしそれは違うと思うよ!
なんだか危ない扉を開いてしまいそう。(開くどころか、もう片足突っ込んでるけど)

「それはやめて!」
「その割には嬉しそうね、なまえお姉さま」

響子ちゃんのばか……
全てを見透かしたように言う響子ちゃんに頭を抱えた。
例え、お姉さまなんてあやしい響きの敬称が付いたとて、嬉しいものは嬉しいのだ。(お姉さま呼びも大変萌えるのだけど)

「ごめんなさい。なまえ……」

敬称も付けずに呼ばれた名前にはっとし、傾いだ頭を上げる。
お姉さまでも十分嬉しかったけれど、やはり呼び捨てに勝るものはない。

「好きよ」

頬を仄かに赤らめ、恥ずかしそうにそう紡ぐ響子ちゃんにつられて、わたしの顔も熱く火照ってきた。
わたしも響子ちゃんが好きだよ。
どうしてか、中々出てくれない声を絞り出し、言い終えたのと同じタイミングで抱き寄せられる。

そして、響子ちゃんとわたしは初めてキスをした。


13/12/25
(同日のメモに別パターンアリ)

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