恋人の特権


「霧切ちゃんは後輩のくせに生意気だ!」

わたしは唐突に立ちあがり、大見得を切って主張する。しかし、その霧切ちゃんはといえば、一瞬こちらに視線を向け、「図書室では静かに」と窘めるだけで、すぐに読んでいた本に視線を戻した。
図書室に来てからずっとこの調子で(本を読む場所だから当たり前なのだが)まったく相手にしてもらえないから暇で仕方がない。霧切ちゃんの麗しい横顔をずっと眺めているのもいい加減に飽きた。

「霧切ちゃんのばかーあほー」

あまりにも暇で霧切ちゃんに稚拙で理不尽な怒りをぶつけるものの、やはりこちらを気にする様子はない。
だが、「構ってくれないし、何もやることがないから盾子ちゃんと舞園ちゃん辺りに隣の晩御飯しに行こうかなー!」とわざとらしく口にしたところで、彼女の体は小さくはねた。

何故だか不思議に思いつつ、これは使える!と考えたわたし。
言ったそのままの勢いで立ちあがった。…のだが、何故か逆戻り。鈍い音を立て椅子に臀部を打ちつけた。

「……」

しかし、当の犯人はといえば、わたしを見つめるだけで口は噤んだまま。顔は相変わらずの無表情なので、思考は汲み取れない。
もしかしてわたしの腕を引っ張ったのは霧切ちゃんじゃないのでは…と思うくらいには沈黙が続いた頃、彼女はやっと口を開いた。

「貴女は……みょうじさんは無条件で私の傍にいてくれるものだと思っていたわ」
「え」
「そうよね……」

そう言って小さく息を吐くと、彼女はぱたんと音を立てて本を閉じる。続きが気になるから、という理由で本のためにここまで来ていたというのに、どうしたのだろう。

「私に嫉妬させるなんて……みょうじさんのクセに生意気ね」

何を言うのかと思えばそんな事…じゃない。え?うん?わたしの聞き間違い?
嫉妬なんて、そんな、…まるで霧切ちゃんが、わたしの事……。

「みょうじさんが考えていることは恐らく間違いないわ」

霧切ちゃんの突然の告白に息を飲む。
まさか、彼女がそんな風に思っていたなんて気付きもしなかった…いや、そんなわけないと目を背けていたのかもしれない。

「無条件で傍にいる事ができる関係になってくれないかしら」 











13/11/7
(主人公は同い年の77期生というどうでもいい設定)

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