やっぱり、あなたはずるい人


夏休み最終日。
なまえは一人で買い物をしていると、亜美を見つけた。
目立たないよう、変装しているのか、キャップにに大きなサングラスをかけている。
けれど、それは逆効果のようで、周囲の人たちは指をさしながらひそひそひそひそ。

「亜美ちゃん……だよね?」
「……なまえちゃん」

なまえが、自信なさ気に話しかけると、亜美はかけていたサングラスを少しずらし、その大きな瞳でなまえを捉え、彼女の名前を小さく呟いた。
なまえはそれに安堵するも、いつもと違う様子の亜美に首を傾げる。

「亜美ちゃん……別荘で何かあった?」

なまえの真っ直ぐな言葉に亜美はびくりとする。

ついこの間自身の別荘に行ったというのを、なまえも誘われていたために知っていた。
外せない用事のせいとはいえ、断られた時の亜美の残念そうな顔を、今でもなまえは鮮明に思い出せる。
それに、今のこの落ち込みようを見て、何故あの時行くと言えなかったのだろうとなまえは後悔していた。

「なまえちゃん、スドバ行こっか」
「え?う……うん」

いきなりの提案に、なまえは驚くもちゃんと言葉を返し、亜美の後に続く。
少し前まではまともに会話する事もままならなかったというのに、本当に大きな進歩だった。
なまえもそう思っていたため、不謹慎ながらも緩んだ頬を隠しきれずにいた。







カウンター席に着くと、「ちょっと待ってて」と言って亜美は飲み物を買いに行ってしまった。

「キャラメルマキアート好きだったよね?」
「ありがとう(やだ、こんなの……亜美ちゃんじゃない)」
「なまえちゃん髪切ったんだね、可愛い」

突然聞こえた声に振り向くと、さっきまでとは違った亜美の笑顔。
好きな物を覚えていてくれていた事や、気付いてくれた事はとても嬉しい事のはずなのに、なんだか距離を感じてしまい、なまえは手放しで喜べなかった。

「亜美ちゃんはさ、私のこと本当の友達だと思ってくれてる?」
「え……?」
「何か悩んでるなら……私で良ければ聞くよ」

今日出会った時の亜美を思い出す。
先程は気付かなかったけれど、今にも消えてしまいたそうに思いつめた表情をしていた。
ただ漠然と、その表情にかつてない程の恐怖を感じていただけのなまえは今更ながらに内心驚く。

「……あたしがいなくなったらどうする?離れたくないって、思ってくれる?」

いつもより至近距離にある大きな瞳に見つめられ、なまえは動きを止めた。
考えていた事が見透かされてしまったのかとも思ったが、亜美の真剣な表情にそうではない事を悟る。

「思うよ。離れたくない。寂しい……だってまだ私には亜美ちゃんが必要だから。ずっとずっと必要だから」

(亜美ちゃんがいたから私は変わろうと思えた)
(だって、気付いちゃったんだもん)
(私は、亜美ちゃんが……好きなんだって)

「私は亜美ちゃんが好きだから、これからもずっと一緒にいたい」
「あたしも好き。ありがとうなまえ」
「え!?」
「だって、親友でしょ?あたしたち(まだ本当の事なんて教えてあげない。私に片想いしているなまえも全部全部あたしだけのものにしたいから)」


09/4/4

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