素直になれない


「な、何であんたらまでいるのよ……」

ことの始まりはなまえの一言だった。







「川嶋さん、お昼……一緒に食べない?」
顔を少し赤らめての絶妙な上目遣い。
なまえのことが気になって仕方がない亜美にそれは効果絶大で、無意識のうちに亜美は頷いていた。
だがしかし、実際なまえの所へ行くと、予想外。
いや、想像はしていたが心のどこかで否定していた光景が広がっていたのだった。







「あんたの席はここね」
「なんで亜美ちゃんがあんたなんかの隣に座らないといけないわけえ?まじ意味わかんねーし」
「いちいちうっさいわね、私が誘ってあげたんだからありがたく思いなさい」
「はあ?何言ってんのあんた、亜美ちゃんをさそ……え?」

亜美ちゃんを誘ったのはなまえちゃん。亜美は大河にそう言おうと思ったのだが……。

「も、もしかして……え、これ全部逢坂さんが仕組んだことだったりするのかなあ?なん「そうよ」

考える間もなく大河は言うと、熱弁を振り出す。
主に、上目遣いの角度とか、角度とか、角度とか!
その際、大きく振るっていた腕は無遠慮に亜美の肩にぶつかっていた。

「あっ、あんたはどんだけあたしを怒らせれば気が済むのよ!」
「……ねえ、川嶋さん」
「な、何よ……」
「あんた、何で怒ってるの?」

にや、と笑って核心めいた発言をする大河に、亜美は「え?」と、間の抜けた声を発し、固まる。
やばい、まずった。
その場を取り繕おうと亜美は頭をフル回転させる。

「そういえばそうだな。亜美、お前何で怒ってるんだ?」
「なっ……なんでもねーよ!!」

しかし、北村の一言によって邪魔が入った。
いきなりの展開に亜美は誤魔化すしかなく、対する北村も「わからん」とでも言いたげに首をすくめてみせる。
どうやら亜美の異変に気付いているのは大河だけのようだ。
不幸中の幸い……いや、不幸中の不幸かもしれない。
亜美は黙ったまま大河の隣に座ると、激しく貧乏揺すりを始める。

「ちょっとアホチワワ、その貧乏揺すりやめなさい」
「……」
「私が今気付いたこと、この地味子に言ってあげてもいいのよ?」

亜美は大河のその言葉に過剰に反応すると、びしっと脚を揃えた。
けれど、止まったからといっても、苛々が収まる事はなく、脚を揺することによってはきだしていたソレは行き場を失い、綺麗に整った顔を歪ませる。

竜児に指摘されるまで気付く事のなかったその表情は、酷く恐ろしかったという。

「や、やっぱり皆で食べるお弁当は美味しいなあ〜、ねえ、逢坂さんもそう思わない?」
「そうねえ(川嶋さんには地味子がいるもんねえ?)」
「あ、それ美味しそう♪一つもらっていいかなあ?(あんたには祐作がいるだろ。だいたい地味子ってなんだよ。ばっかじゃねーの!)」

二人がバチバチと火花を飛ばす中。
北村と実乃梨は黙々と弁当を食べ続け、竜児はため息、なまえはオロオロとしていた。

「おい、おまえらいい加減にしろよ」
「何言ってるのかなー?高須くんは!こんなにも仲良しなのに」

亜美は微笑むと顔を引きつらせながら大河の肩を抱く。

「おお、お前らいつのまにか仲良くなってたんだな!」

二人が机の下で足を踏みつけ合っているとは露知らず、北村は楽しそうに笑って言う。
それを見て竜児はもう一度ため息。すると、隣からも小さなため息が聞こえた。







「川嶋さん」

弁当を食べ終え一人教室を出て行く亜美になまえは声をかける。
少し離れたところからずっと傍観しているような亜美が自らの意志で大河と話しているのが気になっていたのだ。

「なあに?なまえちゃん」
「今日はごめんね、逢さ……大河がどうしてもって言うから」
「ううん、楽しかったから平気!」

そっか、
となまえは小さく呟くと何やら考え始めた。

「今度は……2人で一緒に食べない?」
「は……?」

なまえの突然の誘いに、別の事に気をとられていた亜美は反応できず間抜けな声を出す。

「嫌なら断ってくれて大丈夫だか「考えとく」
「う、うん!ありがとう川嶋さん」

引き止めてごめんね、と申し訳なさそうに言う顔に一瞬だけ目を配せ、すぐにその場を立ち去った。

「大河に、川嶋さん……か」


09/3/5

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