0514


誰かが呼ぶ声がした
……なんて厨二くさいことを言ってしまったけど、薄い意識の中で本当に誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたんだ。




目を開けてまず視界に映ったのは、木材の天井。そして消毒液特有の匂い、ここは一体どこだ。知らない場所に僅かばかり不安を感じて視界を動かせば、驚愕といった表情を出す見知らぬ男が立っていた。

「…起きたのか!!お、おい!名前が起きたぞ!!」

その男は我に返ったかと思えば弾かれるように騒ぎながら部屋を出ていった。俺の名前を知っていたけれど、生憎俺には覚えがない顔だ。あんな男臭い男見たことねー。さすがに出会ってたら覚えてると思うんだが、

「っ!、!ほ…ほんとに…っ名前!」
「おい!邪魔だ!名前が見えねぇだろ!!」
「っ…やっと起きたのかい…っ、寝坊助だねェ…っ」


なんなんだ。この集団は。

「…あの、」
「なんだ!どこか痛いのか!?」
「おい、エース!声がデケェ!!」
「なんだよサッチだって…!」

「……アンタたち、どちら様っすか」

「…、は…っ、冗談き、ついだろ」
「お前ェ、名前…オレらのことわかんねェのかい」
「ちょ、まてまてまて。ふざけてんだろ?なあ、名前」


やっぱり、どうも面識があるらしい。それも結構親しいとみた。でもマジでしらねぇよ、こんな年齢層のバラツキがある連中なんて俺しらねぇ。だから、そんな、泣きそうな顔すんなよ、何だよ。お前ら、

「誰なんだよ…」


一番若い男が泣きそうな、絶望したような顔をして部屋の外へと飛び出した。傷つけちまったなぁ、と冷静な自分が少し不気味だ。


「…っ、俺らを忘れちまったのはこの際、置いておく。必ずお前に俺たちの事を思い出させるからな。…だが、何でお前が今ココで、この部屋で眠る事になったのかも覚えてねぇのか」

リーゼントの男は強い眼差しで俺に問う。だが、彼の質問にも応えられない。目が覚めたらここにいたとしか、今の俺には言えない。その答えしか持ち合わせてない。


「悪いが、…なぁ、俺はどうしてここにいる?此処はどこだ」

「っ、なんでだよ!!だったら!!何で、…っ何でお前はあんな事したんだ!!あんな事さえしなければ…ッ!」

「サッチ!落ち着けよい!!今の名前に当たっても仕方ねぇだろ!!」


俺が一体何をしたってんだよ。わかんねえ。こいつらも俺がした事も此処にいる理由も経緯も。何もかも、わかんねェ。

ただ分かるのは、

「…悪い。お前らを忘れて、ごめんな。」


俺の言葉に年甲斐も無く涙を流すこいつらは、きっと俺と親しかったということだけは。今の俺にもわかった。



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