気付いた時にはもう、貴方の隣に居る事が当たり前になってて、それが普通だと思っていた。
それが特別なことだと気付いたのはいつだったかしら。それでも私は、貴方から離れられなくて、離れようとしなくて、ただ貴方を欲した。
けれど貴方は私なんかまるで空気の様に扱って、あたかもそこに私は存在しないかのように扱って、それでも私は貴方の傍に入れることだけが、ただ、幸せだったのに
――闇の帝王が死んだ
そんな噂を聞いた時、本当に頭がおかしくなったのかと思った。そして真実を見つけようと必死になって、ようやく見つけた貴方は人の力を借りて生き永らえてる哀れな姿。
その時、私は初めて貴方という存在を拒絶した。
「…そんなの、貴方じゃない」
もしも、貴方に実体があったならきっと私は今ここで、「アバダ・ケダブラ」と一言、破滅させられていたんだろうな。とか「クルーシオ」かしら、とか何にも楽しくないのに笑えて来て、人目も憚らず本能のままに笑いを溢せば何処からか怒声が聞こえる
「貴様、何が面白い?」
ああ、何が面白いんだっけ。貴方が居なくなってしまったこと?…ううん、そんなことじゃない。
じゃあなんだっけ?今、何で笑っていたんだっけ?
「ねぇ、トム‥ううん、ヴォルデモート卿」
姿を見せない貴方に声をかければ、どこからか声が聞こえてくる。――今度は貴方が私の傍に居るのね。…あぁ、この事に私は笑ったのかな、
「貴方は死んだの?」
「愚かな者よ、俺様は死にはしない」
貴方らしい返事にまた、笑顔。
私の知ってる貴方でよかった、でも、最後に貴方に会いたかったなぁ。だなんて贅沢かしら
「私はね…死ぬのよ」
私を照らす月明かりは、まるでスポットライト。
今だけ私は舞台の上のお姫様。お伽噺のお姫様には必ず素敵な王子様がいて、そうして素敵な彼に助けられる――‥なんて私の王子様はさしずめ死神、あたりかしら
クスクス、と抑えられない笑い声
不機嫌な貴方の声が私の感情を更に煽って、笑いが止まらない。
薄暗い森に響く私の笑い声を止めたのは、誰かの手。鉄や何かかと思うぐらい冷えていて、そっと私の手を重ねれば、私の首を掴む冷たい手が、少しだけ弱まった気がした
「誰かにお前を殺されるぐらいなら、」
「…ねえ、リドル」
――…最期に私の名前を呼んで?
「僕の手でキミを殺してあげる。」
「…愛していたわ。貴方の事を」
この世界の最期は、貴方でいっぱいだった。
「君は永久に僕のものだろう、名前」
「キミが死ぬ時は、僕の手でさ」
「…魅力的ね」
それは、小さな約束
111211
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