「何故名前様は…、」
そう言って言葉を濁らせた彼、ルシウスに穏やかに笑えばほんの少しだけ彼の表情も柔らかくなる。
ルシウスの言いたい事はすぐにわかった。私の家系は先祖代々グリフィンドールに入っていて、さらにはグリフィンドールには少し珍しい"純血主義者"であり、闇の魔術を酷く嫌っているのだから。
漏れず私もグリフィンドールに入ったのだけれど、純血云々はどうでもいいし、正直スリザリンや他の寮だとしてもよかった。とどのつまり“どうでもよかった”のだけれど。
「私も彼と同じだからかなぁ…。私もね、愛を知らないのよ。そして愛に対して憎しみすら感じてる。…ううん、違うなぁ、私の場合は枯渇、羨ましいのかも。」
そんな私が何故、"闇の帝王と一緒にいるのか"と言えば、ただの気紛れでもあるし親族に対する一種の反抗でもある。
とは言え、私もそんなくだらない事で命を危険に晒すほど愚かでもない。本当の理由は…――
「人が最も恐れるべきは、言霊よ。…あの、闇の帝王でさえも、言霊に縛られてる。」
「…コトダマ、とは…?」
「古代日本で、ことばに宿ると信じられていた神秘的な霊力のことよ。…少し難しいかしら」
「…いや、なるほど」
顎に手をあてて興味深い、と呟いていたので概ねは伝わったようだ。やっぱり頭いいわね
「……だから、あの子には言わないのよ。」
「あの子?」
「そう、それが私がここにいる唯一の理由なの」
可憐な百合は貴方の全てを許していたことを――言ってしまえば、あの子はきっと
「ルシウス」
「はい」
「…シシーを大切にするのよ」
「…はい?」
今は亡き私の親友との約束を守るために、私は
(名前?セブルスを守ってあげてね!)
そうやって人は支えられて生きていく。
120309
title:噂のあの子
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