痛むからだに目を覚ませば見慣れた天井にため息がでた。

この生活にはもう随分と慣れてしまった。研究として与えられた薬にも、副作用のせいで動かない身体を無理矢理引きずられながら、また新しい研究を与えられるのも。それが異常だとは分かっていても、逃げる事も抗う事も出来ないままで、受け入れる以外俺に選択肢は存在しない。

気に入ってた真っ黒な髪も副作用のせいか、爺さんのように真っ白な髪に変わってしまったし、髪だけじゃなく睫毛も、眉毛も、全部変わってしまった。
俺はそれが酷く怖かった。俺が俺じゃ無くなるようで、薬によって、ここにいる研究員によって俺という存在が消されて行くこの感覚に堪らなく恐怖を覚えていた。


体を護るように、膝を抱くように横になっていると数人の足音が向かってくる音が聞こえてきた。"研究"や"実験"、さらには"薬"のせいで俺は少しずつ人とはかけ離れて行っているのにまた、一つ絶望を感じてしまうのだ。


「来い」


牢獄のようなここで、一生を終えるのか、なんて今に始まった事でもない考えを何度も何度も繰り返し、何度も何度も同じ結論にたどりつく。


「…は、い」


――俺に救いなど無いのだと。


研究員に連れられた先は、いつもとは違う空間で、光を完全にシャットアウトした異様な一室だった。いつもと違うというのはこんなにも不安なのだろうかと動揺を隠せずにいる俺に、彼らは容赦なく突き飛ばすように部屋へと押し込んで厳重に鍵をいくつもかけて行く。

不安を少しでも減らそうと部屋を見渡すとカサリと小さな音が耳に届いた。


「…だれ?な、に?」


たまに、本当にたまに。研究の結果として、ポケモンと俺を戦わされることがあった。今回もそうなのかと思うと、過去に経験した恐怖が全身を凍らせて息までも止めてしまった。まるで犬のような細かい息で何とか呼吸をしているというのに、マイク越しに研究員たちはオレに指示を飛ばして嗾ける。


「何をしている。早くソイツを倒すんだ」


倒す、なんてどうやってしたらいいんだ。やらなければやられる。そう分かっていたって、倒す方法なんて見つからないし、第一相手がどんなものかすら検討もついてないんだ。微かな音に辛うじて居場所は把握出来ていたって相手はポケモン。そして俺は人紛い。どう考え立ても俺が負ける確率の方が高いだろう?


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