さん


私が、神曰く"別の世界"にやってきて数日経った。
此処に来た日は、どうやら春休みに入ったばかりだったみたいで数日先のカレンダーに大きな文字で「入学式!」と書いてあることから憶測していた。

見た目だけとはいえ、高校生の私が1LDKのマンションに一人で住むのが少しだけ気になって、此処の世界の私は天涯孤独にでもなっているのかと不安にもなったけれど、どうやら両親は海外に単身赴任中だそうで少しだけ安心した。
私の知らない私の両親から三日ごとにメールが届く。内容は決まって「元気?」から始まる事に少しだけくすぐったい気持にさせるけれどもちろん厭な気にはならないのはやっぱり彼らが親だからなのか、私が幼くなったからなのか。

当たり障りのない返事をした後、適当な服に着替えて外を見て回ることにした。
海が近いのか少しだけ磯の香りが漂うこの町は中々過ごしやすく治安も良さそうでよかったと思う。とは言っても善人だけが居る訳じゃないと前回の人生、で学んだのであまり過信はしない。せっかくなんだから楽しみたいんだもの。







特にすることも無かったというのもあって、バスに乗って海まで来た。時期的にまだまだ海に入ることはおろか、風が冷たいと感じる季節ではあるけれど目まぐるしく過ぎた日々を思い出させるにはちょうどよく心地がいい。

うっすらと赤みがさしてきた陽を正面に、砂浜に腰をおろすと不思議とざわついた心も沈んでいくようだった。風が私の長い髪の毛を浚うように靡かせた


――あの日間違いなく私は死んで、此処に来た


それは紛れの無い事実であり、非現実的なことであった。
初め目を覚ました時は夢なのだろうかとも思いはしたけれど、胸に残る傷跡が何よりの証拠。こわくないと言えば嘘になる。当然だ、私は右も左も分からないところに放りこまれたのだから…、いくら幾分か年を取っていたとしても未知なるものに恐怖を抱くのは自然の理なのだから。


ほう、と息を吐いたけれど波の音が私のため息をかき消して、少しだけ、口角がつり上がった。







家につく頃には大分薄暗くなっていたけど、私の心は朝よりもずっと明るかった。目前に迫った高校生活に、少しだけ心が躍り始めた、今日のこと。


「犬、…飼おうかな」




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