私は今夢を見ているに違いない。
引きずるようで申し訳ないけれど、私は現実主義者であって非現実的存在を認めてはいない。幽霊然り宇宙人然り。そしてそれは例え"神"であっても揺るいではいない。





目を開ければ、実家の自室風景があった。
幼少時代からフリフリヒラヒラした可愛らしいものよりも、実用性のあるもの(今思えば可愛げのない子どもだったと自負している)を好む傾向があった。それは成長しても変わらず華だ蝶だと言われる高校生になっても変わりはしなかった。

真白な姿見に近寄れば幾分か幼くなった顔と自慢だったロングの黒髪。そうして腑に落ちない、何かの違和感を感じた。最後に記憶しているのは刺された事実、


「…あれ」


刺された?誰が?私が、?刺された…?
そうだ、私は確かに刺された。左胸に刃物を埋められて夥しい量の血が流れて…、流れて?どうなった?


「そうだ、傷」


寝巻のシャツのボタンを外して刺されたはずの患部を見ると何ともまぁ大層な傷跡が出来ていた。ケロイド状とでも言うがいいのか、妙に盛り上がっている傷跡は中々にグロテスクであまり見たくないし見せるものでもないと言い切れる。

なるほど。あの、自称神とやらの言い分はあながち嘘でも無いということか。



「おはよう」そう言って笑った男がいた。私は初め夢だと気付かなかった、挨拶をした男と何処で出会ったかと考えてもしも取引先の相手だった場合かなり失礼にあたるな、なんて相変わらず色気もない事を考えたような気がする。


「普段はこんなことしないんだ」

「こんなこと、とは?」

「君は転生って信じているかい?」

「転生とは輪廻転生?それなら答えはノーだよ」

「そう、残念だ」


ちっとも残念そうじゃない顔で、そう言う男に少しだけ嫌悪が湧いた。そしてひとつ確信した。この男は取引先の男ではない、と。


「あんまり否定はしないでおくれ、悲しくなるじゃないか」


はっきり言おう、至極どうでもいい。そう告げれば楽しそうに笑う、きゃはは、と可愛らしく笑う男と同僚と少しだけ被って見えて複雑な心境だ。


「高校生になってみないかい?」

「…頭でも沸いたのかい?」

「いんや、至って冷静で真面目に言っているよ」

「そう…、貴方とは気が合わなさそうだ」


笑い上戸らしい彼は、楽しそうに笑い声を溢しながら話を続けているけれど、あまり興味のない話には聞く必要性を感じない。周りを見渡せばまるで水中にいるかのような景色。でも少しだけ懐かしい、


「ここは願いを三つ叶えてあげる、とでも言うべきかな」

「いらないし、言ったところで叶えられるなんて思わない」

「じゃあ、君の理論を覆そうか。何か言ってみて?」


ほら、言うのはタダだよ。なんて言われてしまえば何と無くあしらうのも気が引けた。確かに彼の言うとおり言うのはタダだ。どうせ言ったところで叶いはしないのだから。

「…高校生にならないかと言ったね」

「うん、確かに私は君に高校生にならないかと言ったよ」

「高校時代の私に戻してみて」

「それは容姿をかい?」

「容姿、というより髪の毛ね」


今では染髪のせいで痛みきってるけれど、高校時代は中々お気に入りの髪質だった。大学に入ってから周りの影響でカラーリングをし始めてからはもう痛みの延々ループ。どうせ戻ると言うのなら髪質を戻してほしい。そして維持すると誓う。絶対染髪なんてしない。


「なるほど、いいよ。まかせて。…それで?あと二つは?」

「無駄毛を生やさないようにして」

「…随分と現実味を帯びてると言うか、何というかやっぱり君は面白いね」

「脱毛エステに行って来い。とかは無しよ?貴方、自称神なんでしょう?」


え?出来ないの?あ、そう。なんて目線で訴えてやれば切れめがちの瞳を細くして弧を描かせた。割とその顔腹立つからやめてくれないかな。彼がもし眼鏡かけてたら間違いなく眼鏡ぶち抜いてた。と、そんな事より人間何もしなくて毛が生えないなんて無理なのである。


「お安いご用さ。…それで最後は?」

「思いつかないからいらない」

「ふふっ、君ってやっぱり面白いよ。うん、叶えてあげるよ。」

「これが出来たら神の存在は認めてあげる」


「…それは嬉しいね」

彼の頬が少しだけ紅くなったような気がした。



…へぇ、神って居たんだ。


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