いち


唐突だけれど、私は現実主義者だ。
現実主義者と言うと少しの語弊とカタブツな感じがするけれど、私が唐突だろうとこんなことを言うことには理由があるのだ。その原因といえば同僚との会話にある。


今日も今日とて朝少し早めに起きて寝ぐせでボサボサになった髪の毛に櫛を通して整えた後歯磨きと顔を洗えば少しだけシャキッとしたいつもの私。
きゅっと強めにひとつにまとめ上げてお昼の為のお弁当とついでに朝食の準備。これがいつも通りの光景である。お昼の準備が出来たらようやく朝ごはんにありつける。余熱で置いておいた目玉焼きとお弁当用のウインナーを少しだけちょうだいして、トーストにバターを軽くつけて席に着く。

コーヒーを一口含めば、ようやく頭もスッキリとして今日も頑張れそうな気がした。

ゆっくりとした朝食を堪能したあとは会社へ行く準備、お弁当と水筒にタオルケット。それに小腹が空いた時用のグミ。まともなものが無いなぁ‥なんて思いつつも必要なものは全て会社に置いてあるし大丈夫。


「さて、と」


時計を見ればいつも通りの時間。
通勤ラッシュの混み合った電車に、ぎゅうぎゅうと押しつぶされながら揺られながら会社へ出社。「おはよう」と見慣れた人たちに挨拶をしながら作業机へとついて漸く一息ついた。今日も中々激しい戦いだった。




目の痛みを揉むことで気を紛らわしつつ、無心でタイプしていると突然肩を叩かれて思わず揺れた体に少しだけ恥ずかしくなった。ゆっくり振り向けばおかしそうに笑う同僚の姿にハテナが浮かんだけれどそれもつかの間で、彼女の手元を見れば昼食であろうお弁当。

「…あれ」

「もうっ!いつまでやってんの。もうお昼だよ?」

「…あれ」

「ほらっ!お弁当もっていくよー!」

時計を見ればお昼休みの時間。彼女の言うことに偽りはないみたいだと思うのと同じく、またやってしまったと苦笑いが出た。私の長所であり短所でもある"集中すると周りをシャットアウト"してしまう。
私を呼ぶ声に小さく返事をして、お弁当と水筒を持って同僚を追いかけた。


「でね!それが凄く面白くてさ」

「ふぅん…」

「んもーっ!アンタはそうやっていつも適当なんだから」

「そんな事言われたって…。」

「でもさ、ちょっと面白くない?タイムトラベルとかパラレルワールドっていうの?ああいう類のモノ。」

「…有り得ない」

「そうじゃなくてさー、夢?ロマン?的な?」


にひっ、と笑う同僚は何が楽しいのか笑顔を絶やさず私を見つつ話を続けるけれど、あんまり私には理解できないことばかり。

だってタイムトラベルなんて出来るわけがないし。

もし、未来に行きたい場合には1秒間に30万キロメートル進む所謂"光速"、に近い亜光速で宇宙旅行をすれば未来へ行く事が出来る。(しかしそれも可能性の一つに過ぎない) 同様に、過去に行きたい場合には光速よりもさらに速く進むことを要求されるわけだ。そんなの人間の身体が耐えられるわけがない。
パラレルワールドだって、タイムパラドックスの解決法として用いられるだけに過ぎない上にタイムトラベルした先にある"だろう"の世界。AルートとBルートのふたつの世界があったとして、Aを選んだ時のBの世界がパラレルワールドだと言うのだから私たちには知る術を知らない。つまりそれは無いのと同等。よってタイムトラベルやパラレルワールドは存在しないと言うのが私の考え。

それを言えば「現実的過ぎ!」なんて言われたんですけどね、ええ承知しておりますとも。


そんな会話を楽しみながら昼食を終え、定時きっかりまで仕事をしたあとは帰宅ラッシュの電車に奮闘しながら帰る。此処までがいつも通りでなんの変哲もない毎日の一ページ。

最寄りを降りて、薄暗い道を歩きながら考えることは明日の仕事の流れと昼食の事。どんなお弁当にしようかな、なんて思っていたから周りが見えてなかったのかもしれない。なんて言っても後の祭りでしかないんだけどね。


左胸が熱いと感じたのは誰かとぶつかったと認識してから暫くした時の事。
女性特有の甲高い悲鳴と男性の呼びかけに疑問を持とうとする、そんな瞬間異常なほどの身体も重みを感じて漸くおかしいと気がついた。


「誰か…!誰か救急車!!」
「け、けいさつも!」
「大丈夫ですか!?しっかりして下さい!!」
「すぐに救急車がきます!オイ!これで止血して!!」

「…ぅァ」


重たくて動かしづらい腕を無理やり動かして、元凶であろう左胸に手を当てれば赤い液体がべとりとついた。その赤い液体を血液だと認識するまでにだいぶ時間をかけてしまったのは余りにも予想外だったからか、それとも既に頭が朦朧としていたからなのか。

目の前が真っ暗になっていく様子を茫然と受け入れるしか私にはできない、なんてあまりにも無情な仕打ちだろうか。

ああ、まさに魚釜中に遊ぶが如し、ですね。今朝の私に教えて差し上げたい次第だね。


131016


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