ジリリリリ、とけたたましい音にゆっくりと意識が浮上する。枕に顔をつけたまま手探りでその騒がしい音を消そうと手を伸ばしてスイッチを切った。ついでに時計を見れば一時間目の授業が始まる時間。
「しまった…」
覚醒しきれない頭をガシガシと乱暴に掻きながらベッドを抜け出し支度を始める。家を出る寸前に見た時刻はもう授業も終盤だ。
「…ってきまーす」
ふわぁ、とあくびをひとつ。
空を見上げれば嫌味なくらいの快晴。ああ、眩しすぎて溶けそう。人気の失せた通学路をたらたら歩けば、ちょうど授業終了を知らせる鐘が聞こえて少しだけペースを上げる。休憩は10分。その間に教室に居ればセーフっしょ!バレてなければ大丈夫!
下駄箱に辿り着いて時間を確認すれば残り3分。
これなら間に合うと思ったのにどういうことだか目の前には竹刀を片手に笑みを浮かべる"非道のイビキ"先生が待ち構えていらっしゃった。
「…今日はとても素晴らしく清々しいお天気ですねまるで先生のように素敵な陽射しにうっとりしてしまいます」
「ああ、いい朝だなァ…?名前」
――スタートダッシュまであと2秒
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乱れる息を整えながら、教室のドアを勢いよく開くと見慣れたクラスメイト達の姿にほっと一息。このクラスは平和だな。ぼんやりと考えながら息も絶え絶え、制服は乱れ切っている俺の姿を見て苦笑を溢す周りに挨拶を交わしながら自席へとついた。
「おーおー!朝から元気だねェ!!」
「うっせ、ほかっとけ」
ようやく教室に辿り着いたと言うのに、何処から聞きつけたのか楽しそうに絡んでくるキバをあしらえば余計に喧しくなった。朝から元気なのはお前だよキバ
今日はマジでついてない。こんなことならサボって睡眠を貪ってればよかった、そう考えてため息を溢した俺に追い打ちをかけるかのように無表情なシノが立ちはだかった。
「お前は今日遅刻をするべきではなかった。なぜならお前は日直だからだ」
「げぇ…マジでついてねぇ」
「今までの分は書いてある。なぜならお前が居なかったからだ」
「あー、わり。さんきゅ」
日誌を渡し終え、席へと戻っていくシノを見送ってため息を溢す。今日何度目だよ、幸せ逃げすぎ…。やなこと続くなぁ。
チャイムを聞きながら頬杖をついて空を見上げると、やっぱり嫌味なほどの快晴にまたため息が出た。
「あなたまた遅刻?いい加減夜更かしやめなさい」
「ん?あ、紅ちゃんオハヨー。今日もキレイだねぇ」
「まだ寝ぼけてるの?」
「やだなぁ、正気ですよー」
もう。と教卓へ戻っていく紅先生にほっこりしながら授業の用意をする。あー、眼福眼福。朝からむっさい野郎ばっかりだったからなー。やっぱ紅ちゃんはいいね、男を見る目に関しては認めねーケド。
「あの熊髭の何処がいいんだかねー」
「人それぞれ、ってことだろ」
「お、シカマル。はよー」
「ああ、また寝坊か?」
「いんや、目覚まし時計が俺を学校に行かせてくんなかった」
「寝坊なんだな」
えー、だから目覚まし時計が〜ああもういいわかったわかった。ちぇー。
呆れたように額を抑えるシカマルに、思わず吹き出せば紅ちゃんから注意が飛んできた。おっかねー。さーせん。
「で、昨日はナニしてたわけよ?」
「前向けクソヤロー」
下品な笑みを向けるキバへ冷静に返せば拗ねたように口を尖らせた。野郎のそんな顔可愛くねーよー。どうせなら紅ちゃんにやってもらいたいわ!
「でもマジで何してたんだよ?」
「お、やっぱりシカマルも気になるよな!」
「別に。ただゲームしてたら寝んの遅くなった」
「なんだよつまんねーの!」
「いやマジ面白ェゲームでよ、今日うち来いよ」
「めんどくせェ…」
「シカマル、てめぇは絶対連れて行く」
「げ、マジかよ…」
眉間にシワを寄せたシカマルに対してキバは乗り気で喧しく騒いでいるのを横目に、怒った紅ちゃんがこっちに来るのをぼうっと見ていた。それに気がついたのかキバ達もそそくさと居ずまいを正したが時すでに遅し、
「あなた達!さっきからいい加減にしなさいよ!」
「ごめんね紅ちゃん!今から真面目になるから!」
「それなら黙って教科書をすぐに開きなさい!キバとシカマルもよ!!」
「おっけ任せろ!ホントごめんね!」
授業中は静かにしないと、他の人の迷惑になります!ってね。
(あ、チャイム鳴っちゃった。)