事の発端はナルトの「総理大臣になりたい!」という発言からだった。
ナルトが「総理大臣になるってばよ!」なんて言うのは今に始まったことではないのでいつものように皆がスルーしていたのに、今日は何故かドヤ顔をしていたのだ。
かといって興味は一切なかった俺は通常通りスルーして席に戻ろうとしたのだがナルトが俺の腕を折らんとばかりの勢いで掴んで離さなかったため折れてやったのだ。
「…んで?」
「今日は夢が叶う日なんだってばよ!」
「…あ、そう」
「んな!名前ってば真面目に聞いてねぇだろ!!」
何が夢が叶う日だ。そんな日あってたまるか。学年最低位のナルトが総理大臣になったら日本滅亡する。
ナルトに気付かれない程度に溜息を吐いてやんわりと掴まれた手を外しながらナルトを見れば口を尖らせて不満をあらわにしていて思わず苦笑した。
「拗ねんなって、そういうんなら別当たれよ?俺ぁパスだ」
生憎そんな迷信信じてねぇんだ、とナルトの柔らかな髪をくしゃりと混ぜてやれば益々口を尖らせてしまった。何というか幼いと言うかガキっつーか、扱いやすいには変わりないんだけど。
「大体七夕なんて姫さんたちの記念日みたいなもんだろ?そんなめでたい日に人の欲なんか相手にしてらんねーって」
「うっ、そ…そう言われると何も言えねぇってばよ…」
「だろ?んじゃこの話は終わりだ。じゃーな」
「あ、ちょっ‥名前!待てってば」
背中で騒がしいナルトを放っておいて教室を後にする。昼休憩のおかげで何処に行っても騒がしいのに小さく溜息を吐いたあといつもの場所に向かう。
ギイ、と鈍い音を鳴らしながら開いた向こうには綺麗な青が広がっていた。
「よォ、お前もサボんのか?」
「あ?おーシカマルか。」
そう言えば4限の授業から居なかったな、居ねえの当たり前すぎて気付かなかった。
「おめぇ失礼なこと考えてんだろ」
「いんや?つーか一本くれ」
「あ?‥珍しいな、なんかあったか?」
怪訝そうにしながらも煙草を一本くれる上に俺が煙草咥えればすぐに火を点けてくれるあたりがイケメンだ。
深呼吸をすればメンソールが喉に広がって気持ちがいい。
「ナルトがよー、総理大臣になるんだとよ」
「んなの今に始まった事じゃねェーだろ?」
「それが今日は夢が叶う日らしく集まろうってキャンキャンしてる」
「…へェ、キバもか」
シカマルはホント察しが良くて助かるよ。
シカマルの言った通り、ナルトと一緒になって騒いでるのはキバもなのだ。やんちゃ盛りの子犬のようにオレの周りをぐるぐるぐるぐるしやがって。あいつのおかげで授業中当てられるわ、立たされるわ‥アイツ近いうちしばく。
「どーせサクラあたりにでも七夕について吹きこまれたんだろ」
「いんや、それがまさかのヒナタちゃーん!」
「まじかよ」
「そそ、ヒナタちゃんはナルトと一緒に七夕祭り行きたくて誘ったってのに、あんのクソ野郎…。」
「あぁそういうことか。んで、お前は怒ってんのか」
「当たり前だろーが。あんな可愛い子ちゃんに誘われてんのに何で気づかねぇんだよ!」
空を仰げばすい込まれるような青が広がって、勢いのまま仰向けに転がればシカマルが苦笑したような気がする。
織姫さんと彦星さん会えればいいな。なんて乙女染みた事を想いながらも清々しい天気には笑みが零れた。
「チクショー!オレの織姫様かもーん!!」
「…本音でたな」
120713