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「ごめんね、――これが最後だから」
そう言って泣きながら笑った名前姉さんは、オレと兄さんの額に口付をして幻術を解いた。
刀を握りオレに向かってくる姉さんは先ほどとは別人のようで一瞬怯んだけれど、刀が届く前に兄さんがクナイで受け止めた。
鈍い金属音が響いたあと、兄さんは名前姉さんへ体術や忍術を繰り出したけれど、どれも避けられてうまく決まらない。そうして漸くオレも姉さんに攻撃すべく愛刀を手に千鳥を纏わせ踏み込んだ。
どれくらい続けただろうか。どれだけ傷を付けてしまったのだろうか。どれだけ苦しませ悲しませてしまったんだろうか。オレは、昔から姉さんに守られ続けてきたのか。いや…今も守られているんだろう
"ゼツという暁のメンバーに監視されているから"そう言って本気のやり合いをしろという理由。それはきっとマダラという男が関係しているんだろうと今のオレなら分かる。
両手を広げオレを受け止めてくれる彼女も、笑顔を向けてくれる彼女も、オレ達兄弟が大好きだと笑う彼女も、本物だったのに――オレは姉さんの優しい嘘を信じ、そして思い込みあまつさえ憎しみを抱いてしまった。それがたとえ名前姉さんの目論見通りだったとしても、オレはとんでも無く愚かだった。
オレが里を抜けるあの日、イタチ兄さんが何故悲しげだったのか全て教えられて初めて理解できた。
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留めだと貫いた腕には肉を削ぐような感覚と共に間違いない手ごたえがあったのにも関わらず、名前姉さんの胸にあるはずの心臓は、もう無くて。切なげに顰められた眉の理由はその時はまだ、分からなくて。
姉さんはもう、生きながら死んでいる。
契約だと、――オレ達兄弟を一族を、里を守る契約だと。ただ己を犠牲にして全てを受け入れた。
姉さん、姉さんねえさん名前姉さん。昔から何処か線を引いていてもオレ達に愛をくれる姉さんが大好きだった。愛していた。だからこそ裏切られたと思ったあの日は絶望と憎悪しかなくて、言われた通り姉さんのオネガイだったから、殺すことでオレも姉さんも救われるんだと思っていたけれど――結局姉さんは救われないじゃないか
だったら、そんなオネガイなんて要らない
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姉さんと兄さん、そしてオレ。
三人とも傷だらけでチャクラの消費も激しく、もう長くはないと過った時。オレンジ色の面をした男が現れた。
名前姉さんを守るように肩を抱いてこちらを見据えるその面からは、オレ達と同じうちはの証しを爛々と光らせていた。
――嗚呼、こいつがうちはマダラだ
141106
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