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あのイタチが負傷して里へ戻ってきた。幸い命に別条は無いらしいけどイタチの表情は暗く、その表情がどうも過去にも見た気がして妙に引っかかった。
後に見舞ついでに詳細を探れば、サスケと共にうちは名前と戦いそうして逃げられたのだという。
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あの子は、一体いくつのモノを抱えているのだろうか。
初めて会った時は、一族と言う柵の中、そしてイタチという兄の存在と妹という立場のプレッシャー。それでも綺麗に笑う子だった。
そうして次に会えた時は、サスケへ殺してみろと挑発する彼女。嬉しそうに楽しそうにサスケの事を話す彼女の面影は何処にも無くて、あんなにも酷く殺気満ちた姿はどうしても違和感が堪えなかった――根拠なんてなかったけれど、彼女が本当に憎しみを持って一族を手にかけたとはどうしても思えなかった。
こんな私情に左右されるなんてまだまだオレも若いね、なんて自嘲したものだ。
そして、彼女が干柿鬼鮫と共に里へ侵入してきた時。――彼女の"月読"を受けたとき干柿鬼鮫はオレが精神崩壊を起こさない事に驚いていた。ただオレの忍耐と彼女のチャクラの残量、その他の要因の理由があったとしてもオレはどうしても彼女が"手加減"をしていたようにしか思えない。
何よりあの彼女の世界――月読での世界――で、あの子はオレを傷つけるたびに、手をかけるたび、写輪眼となった瞳から確かにあの時、間違いなく涙を溢していた…、一体何故なんだ。名前ちゃん…
「…あの笑顔が見たいのよ、ホント」
もうあの頃に戻る事は叶わないけれど、あの子が最期に笑ってくれたらなんて柄にもなく思う。イタチの妹でもなく、一族殺しの罪人でもなく、抜け忍サスケの姉でもない。ただの名前としてあの頃の、陽だまりのような温かい笑顔を。
―――ただ一度でいいから、と。
141018
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