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サソリが死んだと報告があった時は、あの人間紛い‥、いや人形紛いが負けるほどの強敵がいたのかと妙な関心を抱いてしまった。
尾獣探しといってもほとんど虱潰しに近い状態の今、中々全ての尾獣を捕まえる事が出来ずにいるせいか、微かに暁内の空気がギスギスとしていた。かく言うあたしも最近刺々しいと鬼鮫に小言を言われるぐらいには感化されているらしい。
「そういえば名前さん、新入りが入ったそうですねェ」
「知ってる。…トビ、だっけ」
漸くあたしの目の前にあらわれたと思った彼の人は愉しそうに"オレも仲間に入れてもらう"なんて笑っていたっけ。未だ記憶に新しい出来事を思い返せば苦笑が出そうになったけど、目の前でいきり立つ"賞金首"に少しだけ口元を隠した。
「おや、ご覧になられたんですか?」
「一方的にね」
"トビ"の姿は一方的に見ただけで(向こうは気付いてそうだけど)、話はしていないしこの表現はたぶん正しいと思うのに、鬼鮫は何故か不満そうにあたしを見下した。
「…なに」
「いえ、名前さんが気にかけるなんて珍しいと思いましてねェ…」
含みのある言い方に鬼鮫を見上げれば既にこちらを見ていなかったけど、戦闘態勢に入った姿に小さく笑いが出た。普段は幻術に頼りきりだけれど今日は久しぶりに剣術で相手をしてみようと愛刀に手をかければ目を丸くした鬼鮫と目があって少しだけ気分がよくなった。
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「案外あっけなかったね」
「随分と楽しそうでしたねェ名前さん」
賞金首と一概に言えど、つわものばかりなのは確か。でもやっぱりまだ物足りないのも事実で退屈だった。
暇つぶし程度に行う資金調達に角都は喜んでくれるけど、あたしもたまには羽目を外して思いのままに動きたい。そんなことしたら何を言われるか、なんて考えて憂鬱になってくる。
「ねぇ鬼鮫。あたしらの様な輩ってさ、」
「…ええ、?」
「碌な死に方しないって相場が決まってるんだって」
「クク、碌な死に方ですか」
抑えきれない高揚感に笑い声をあげれば、どうしようもなく泣きたくなった。声を出して笑えたのはいつぶりだっただろうか、こんなにも満たされる。
あたしは何を望んでいるのかわからない。壊したいと思ってて、でも同時に守りたいと思ってた。あの日マダラさんが言ったように荷が重過ぎたのかもだなんて、口が裂けても言えないけど。それでもやっぱり思ってしまうの。
「せめて人型ではありたいね」
そう呟いたあたしの言葉に鬼鮫はただ笑うだけだった。
130621
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