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解せぬといった表情のナルトくんに、口元が緩んだ。
ナルトくんは"仲間"をとても大切にしている子だからね、そう言う弱味をもつ人間を追い詰めることなんて簡単でいちばん楽なんだよ。
「なんで、幻術に…っ!?」
「何も目だけが手段じゃあないんだよ、指一本、それだけでじゅうぶん」
サスケに一番近い存在。そして何よりも遠い存在。
ナルトくんの言う"仲間"への想いがどれほどか少しみてみたい、けどそれはまた今度にしようか。あんまり長引かせるのってあたしにも負担かかるもの。
「安心してよ、万華鏡写輪眼は使わない。というより、…まあいいや。それよりもそろそろ眠ってもらうよ」
一気に決めようとチャクラを練ろうとした刹那、ナルトくんは自身のチャクラを乱したことには驚いた。彼も成長はしているんだね、
「ふふ、えらいね。」
うちはの幻術と、他人の幻術。一緒にされちゃ困るよ、あたしはねナルトくん。キミみたいな子を追い詰めるのすっごく得意だもの。
「うわぁああ!!」
"仲間"に責められる気持ちって、どれだけ強い忍でも勝てないんだよ。"仲間"を大切にする気持ちが大きければ大きいほど、心の闇が深く強く根付いて、離れない。
体は鍛えられるし、傷だって日が経てば治るけど。心は決して鍛えることなんて出来ないし、治ることなんて無いんだよ。
「あぁ、ザンネン。幻術解けちゃった」
「オレってば…」
「大丈夫かナルト!!!」
「大丈夫か――、」「あぁ、大丈夫だよ。兄さん」
「っ、!」
何、今の。古い記憶、過去に観たような、ざわめいた映像にノイズの入った声。サスケとイタチさんのような姿、
ぶれた視界に、カカシさんがこちらに向かってくる気配。取り戻した意識に豪火球を放ったけれど、カカシさんの気配が消えた――…?
「下か、っ!!」
地面から飛び出してきたカカシさんのパンチをいなすが、苦手な体術じゃ分が悪い。カカシさんめがけた右手は易々とかわされたけれど、掛かった。
伸びた右手でカカシさんを捕まえれば漸く瞳を見れた。一秒でもあたしを見れば、それは終わりの合図。
「さすが、ですね…。」
「本体は、そちらですか」
「オレの影分身ごとやれ!ナルト!!」
「分かってるってばよ!」
チームプレイ、なんて本当に木の葉らしいやり方で。
緩む口元を無視して、もう一度ゆっくりと瞼を下ろした。
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閉じていた瞳をあければ、ほどなくして鬼鮫が身動ぎしたことで互いに足止めに成功した事が分かった。
「おや名前さんも終わったようですね」
「うん、チャクラ切れ。…でも、足止めも十分できたでしょ」
まだ戦闘の感覚が抜けてないのか、少しばかり興奮したような鬼鮫を一瞥すれば珍しく愉しそうな姿に言葉が切れた。
固まり始めていた体を少しだけ解したあと、再びアジトへと意識を飛ばした。
「フフ…そろそろか」
呻き声をあげる人柱力から、もうすぐ全ての一尾が抜かれようとしていた。
120211
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