処刑台の主役 | ナノ


▼ 37

サスケが負傷したと聞いたのは任務から帰ってすぐのことだった。
慌てた様子のアオバさんが口早に「お前の弟がやられた」と言い終わる頃には病院へと走り出していた。サスケの元へ辿り着いたとき漸く息をついたような気がして、ここまで来る最中ずっとあの日が頭を過って柄にもなく恐かった。


「サスケ‥」

「時期に目が覚めるとは言われたが、」


不自然に言葉を切ったカカシさんにどうしようもなく不安が募って理性が飛んでしまいそうになる。今にもカカシさんに誰がやったんだと問い詰めてその敵を殺してしまいそうだった。冷静なんてなれるわけがないんだ、…たった一人の、オレの弟なんだ


「何が、あったんですか」

「いや‥、」

「今日はDランクの任務だったはずでしょう‥、何があったんですか」


ドクリ、ドクリと心臓が厭に響いてきもちがわるい。
写輪眼を狙う輩だったのか、それとも"うちはの生き残り"、はたまた"オレの弟"なのか…、はっきり言えば心当たりはいくつだってある。うちはを狙う輩は尽きないし写輪眼もまた然り。あの伝説の三忍の一人がいい例だ。
オレの弱みを握ろうとサスケに手を出す奴も未だ少なくない。サスケも弱く無いから今のところ大きな被害は無いので目は瞑ってやっているが、それもそろそろ潮時だろうか。いや今はそんなことよりもこの胸騒ぎを優先するべきか、
下がっていた視線を上げれば、カカシさんは辛そうに眉を顰めていて自然とつられてしまった。


――うちは名前に会った、



その言葉は小さく響くことは無かったけれど静まったこの室内ではまるで反響しているかのようにオレの頭に何度も何度も響いて過去にも味わったあの気持ちを蘇らせた。

綺麗に笑う子だった。家族を愛す優しい子だった。オレやサスケに甘い子だった。いつも何かに脅えている子だった。小さな体で大きな重荷を背負う子だった。オレの大切で、大事な唯一無二の妹だった。

―――…全部、過去の出来事だ、


「そうですか、」

「そうですかって…イタチ、お前、」



いつだったか名前に"うちはが大切か"と聞かれた時があった。大切だと答えたオレにあの子は悲しそうに笑ったんだ。今思い返せばきっとあの頃から名前はおかしかったし、何かがあったはずなのにあの子は何も言わずあの日たった一度だけ涙をこぼしただけで、いつの間にか良くも悪くも"忍"になってしまった。


「…名前はオレが始末します」

「イタチ…」


サスケは知らなくていい。…いや、知らせたくないのだ。
あの夜を境にサスケも随分と変わってしまった。まるで名前のようだと、あの子を無意識に重ねてしまうのはきっとよくないのだろう


「あいつはもう、罪人でしかないんです」



暗闇であの子はオレに助けてと泣いていた


130111

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