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堕ちたサスケを抱えると知らない声があたしに吠えた。喧しいその声に鬱陶しさを感じながらも声の主に視線をやればあたしを威嚇する目とかちあった。
「アンタ…サスケの姉ちゃんなんだろ…!?」
「?、それが…?」
「それが‥って、だったらなんで‥ッ」
顔を歪ませた少年にさっきまで浮上していた熱が一気に冷めていく。なにも知らないくせに
護りたいと思っていたものが護りたいと思っていた者たちによって壊されるあの気持ちもあの時の想いも全部、全部、ぜんぶ―――
「知らなくていいよ」
私はずっと助けて欲しかった。助けたかった知って欲しかった。知られないように必死だった例え小さなことでも、あたしを視界に入れるだけでも声を掛けて欲しかった――ただそれだけで、
「この世で一番の幸せ者ってどんな人かわかる?」
「急になんだってば…」
この世で一番幸せな人っていうのは家族に囲まれて笑う人でも、少年のように夢に向かって歩き続ける人でも、恋人と寄り添い合う人たちでも何でもない。
「何も知らないことが一番の幸せなんだよ」
あなた達は幸せになるの
はき出すように伝えた言葉は酷く弱弱しくて無性に笑えてきた。抑えきれずに小さく笑うあたしに警戒の色が強くなった。それすらもあたしを楽しませる材料となって涙も滲む。おかしい、ふふ、っふ‥ッんふふ、だってだって、全て知っているあたしは不幸だって言ってるものだよ、くふふっ、あふ‥っおっかしイ‥ッふふ、あたしは報われナイ
「オレはそうは思わねェ!!」
強い目をした少年はあたしの言葉を否定した。
知らないことが幸せなんて嘘だと否定し、知っているから不幸だということも否定した。君の思う幸せってなんなのだろう、問えば少年ははっきりとした口調で"仲間や大切な人達と笑顔でいれたら十分だ!"とそう言い切った。「あたしね、お父さんがお父さんで、お母さんがお母さんで、お兄ちゃんがイタチお兄ちゃんで、弟がサスケで幸せだよ!」
少年の言葉はあたしの心を揺すぶった。
130102
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