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頭が喉が胸が腕が、熱を持って痛みを持って息が詰まっておかしくなりそうだ。
マダラさんとの契約の証しで呪印が肌に融けこむたびに全神経を刺激した。痛いのだ、胸が、肌が、一つ一つの細胞が、まるで呪印に侵されていくのを全身で感じているようだった。
「ぁッ‥、っ‥!は、ぁ‥ッ」
「しばらく慣れるまで横になっておけ」
喘ぐあたしの頭を撫でながらそう言ったマダラさんを滲む視界で見れば愉しそうに嗤っていて、どうしようもなく安心した。
大丈夫、まだ死んでいない、あたしはちゃんと生きている。
あたしはまだ、死んでいないと実感できた。
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次に目が覚めた時、心はとても穏やかな気持ちだった。大げさだと笑われるかもしれないけれどまるで生まれ変わったと声を大にしてもいいくらい気持ちは晴れていた。
緩む頬を両手で包んだところでマダラさんが近づいてきたのが分かって余計に嬉しくていそいそと身なりを整えてやってくるのを待っていた。
「どうだ、名前」
「はい、もうずいぶんと楽です」
自嘲的な笑みを浮かべながら答えれば、マダラさんは嘲笑うかのような笑みをくれた。
それに酷く安心をしながら差し出された水を受け取って一気に煽ぐと渇いた喉が潤って気持ちいい。
「暫くしたら修行をする」
「修行‥ですか」
「名前にはオレのために働いてもらわないといけないからな」
至極愉しそうに紅目を歪めたマダラさんにあたしも嬉しくなって、久しぶりに笑えたような気がした。そうっと胸の印を服の上からなぞればもう痛みは無かった、
――…つまらない。
そう思いながら、部屋を出ていくマダラさんの後ろ背を見送った。
蝋燭ひとつ燈された暗い部屋はあたしに安心をくれて、あたしの胸中を表すかのように穏やかに灯が揺れていた
強く、誰よりも強く、強く。
そして何よりも‥ずっと、
120918
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