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"うちは一族がうちは名前によって全滅させられた"
火影様からそう聞いた時、オレは自分の耳を疑った。
あの、いつも笑顔を絶やさず毎日嫌悪と畏怖、憧れと期待の圧力に潰されまいと我武者羅に努力をしていたあの子が、嬉しそうに兄や弟の話をするあの女の子が自分の一族を、だなんて。
何かの間違いに違いないと思っていた。
けれど真実は残酷で、実兄であるイタチに話を聞けば「本当のこと」だと僅かな希望すらも打ち砕いた。
冷徹だと残忍な奴だと言われているイタチがあんな顔をするなんて信じるしかなかったんだ、
―――彼女は里どころか身内をも裏切ったのだ。
「イタチ、抜け忍は…」
「知っていますよ。里の掟を破ったモノは死罪にあたる、常識です」
「‥あぁ、そうだな」
両親や友人をも奪われたイタチは虚ろな目で外を眺めていた。
当時の状況や他にもいろいろと聞きたいことは山積みだったが、これ以上は酷だと判断し「また来るよ」とだけ声をかけて部屋を出た。
彼女の名前と共に聞こえた謝罪が酷く耳にこびり付いて離れなかった。
正直、何か事件を起こすのならあの子じゃなくてイタチだと思っていた。
イタチにはあまりいい噂は無い上につい先日身内で一悶着を起こしたばかりだと聞いたからだ。暗部の連中にも警戒するように言われていたほどだった
「…何があったのよ、ホント」
見上げた空には群れから離れたところで一羽の鳥が飛んでいた。
まるで彼女のようだと思いながら、オレはうちは名前を暗殺対象に書き込んだ。
あの子の笑顔はもう見れない
120915
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